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公爵令嬢はミステリーがお好き  作者: 古城家康
双子祭りの生け贄
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ディオスクーロイ公国⑤

「ほんと、景色最高だね」


 ディオスクーロイ公国に着いた時よりも収まってきたものの降り続いている雪は夕日に染められ魔法のように輝き公国に積もっていく。

 その魔法は切り立った白い山々をも染め上げ、壮大な絵画のようにアリアドネの瞳に映る。


 あぁ、この世界の美しい景色を前世の両親にも見せてあげたいとフッと思ったアリアドネは感傷的になる。


「気に入ってくださったのなら良かったですわ」

「……うん」


 アメットとマーガレットのやり取りが前世の兄とのやり取りを思い出させて、郷愁に誘われているのかもしれない。

 過去の思い出を振り返るようにアリアドネが瞼を閉じれば暖かい室内に少しだけ微睡みそうになる。


(ここが前世なのか今世なのか分からなくなりそう)


 瞼を開けばそこには前世の両親が居て、憎たらしい兄が荷解き手伝えと文句を言っている……なんて妄想をして瞼を開いてもそこに居るのは悪役令嬢。

 窓に近いソファーに座り、ルーシーに入れて貰った紅茶を飲む夕日に照らされたその横顔は悪役のはずなのにアリアドネの糸で攻略対象のスチルとして出て来そうなほど綺麗でアリアドネは見惚れる。


(私がこんな綺麗な人と一緒に贅沢してるって知ったらお兄ちゃんに怒られちゃうわ)


 前世では国内旅行がせいぜい関の山だったので、兄が悔しがるだろう初めての海外旅行は寒くても存外悪くはないのかもしれない。

 前世の両親に関しては兄に親孝行を任せるとして、快く送り出してくれた今世の両親にも借金取りを説得してくれたルーシーにも、なにより誘ってくれたクリスティアに感謝を示すためにも楽しまないとと意気込む。


「しっかり楽しまないとね!」

「ふふっ。えぇ楽しみましょう。ですが本日は旅程で疲れておりますし早々にお休みして、明日はお祭りに参りましょう」

「お祭りって……大丈夫なの?その……」


 てっきり貴族同士のパーティーとかに参加したり、暖かい部屋でカードゲームとかしたりと貴族達の旅行の楽しみ方なんてどういったものなのか知らないので大人しい旅行を想像していたのだが。

 人が多い所に行って大丈夫なのかしらとアリアドネはユーリをチラリと見る。

 ラビュリントス王国の王太子殿下なのだし堂々とお祭りではしゃぐというのは危険が伴わないのだろうか。


「安心してください。あなたが気づいていないだけで王太子殿下には優秀な護衛が何人もついていますから、透明になって。そうですよね殿下?」

「えっ!?」

「あぁ、エルの言うとおりだ。優秀な者達だから修練を積んで透明人間になれる術を会得したんだ。ラビュリントスの騎士は優秀だろう」

「何処に!?まさかここにもいるんですか!?」


 そんなのお風呂覗きたい放題じゃん!


 透明になるなんて魔法は不純な動機でしか使用する機会はないと狭い二次元の知識で学んできたアリアドネは焦ったようにこの場に居るかもしれない透明人間の存在に、その身を守るように両手で体を抱きしめて探すように頭を左右に振る。


「まぁ、エルも殿下もからかって。冗談ですわアリアドネさん、殿下の騎士は確かに優秀ですけれども透明にはなれません。上手に隠れているだけですわ」

「ひ、酷い!騙したんですか!?」

「ははっ、すまない。あまりにも素直だったからからかいたくなったのだ」


 高潔なるラビュリントス王国の騎士をなんだと思っているのか、例え透明になれる魔法があったとしても覗きなんていう低俗な行為に使用したりはしない。


 普段はクリスティアを間に入れて言い争っているというのに、こういう誰かをからかうときは足並みが揃っているエルとユーリにからかわれたと知りぷっくりと頬を膨らませるアリアドネ。


 いつもクリスティアにからかわれてばかりなので誰かをからかえたことが嬉しいのか、ユーリが声を上げて無防備に笑う。

 その攻略対象然とした笑顔にアリアドネの胸にときめきの矢が百本くらい突き刺さる。


 推しが目の前で笑っているのだ。


 自分が笑われている本人なのだがそんなことは全然気にならない、なんだったらこの笑顔を見るために白塗りの道化ピエロにだってなろうってものだ。

 ユーリの笑顔というアリアドネの心臓を穴だらけにする破壊力抜群のスチルは心の思い出に仕舞って推しの居る尊い世界に両手を当てて拝み感謝をする。

 貧乏でさえなければその笑顔に課金していたところだ。


「一応紹介しておこう、ジョーズ卿」

「はい、失礼いたします殿下」

「彼が護衛騎士の隊長となるから、なにか困ったことがあれば相談するといい」


 ユーリに呼ばれ部屋へと入ってきたのは褐色の髪を後ろで撫でつけた青年。


 濃紺の外套の下に黒のタパードと銀の腕当や胸当の鎧という騎士服に身を包んだその青年はアリアドネの前で頭を垂れると金色の瞳を細めて微笑む。

 エポレットの色が黒に金の縁取りなので王室を守る聖騎士だ。


 そういえば寝台列車の中で入り口を守っている一人の中に見た顔だなっと思っていれば、自然な動作でアリアドネの手を持ち上げたジョーズはそのまま甲へと口付けをする。


「宜しくお願いいたしますレディ」

「ひえっ!」

「ふふっ、お久し振りですわねジョーズ卿」

「えぇ、クリスティー様」


 慣れないレディ扱いに照れて石化するアリアドネの横で自ら手を差し出すクリスティアの甲へと同じようにジョーズは唇を落とす。


 イケメン、沢山、怖い。


 ブツブツ呟くアリアドネのこういった新鮮な態度がからかいがいがあるのだとこの場に居る皆、心で悪魔の尻尾を生やす。


「他国との関係も良好で我が弟妹との継承権争いもない。革命を狙う民衆がいるという話も聞かないので命を狙うような者はいないとは思うが……まぁ、なにかの偶然でこの命を落としたとしても私の弟妹は優秀だから然程問題はない。心配をしてくれたことには感謝をするが折角の休みだ、身分など気にせず純粋に祭りを楽しもう」

「いえ、そんな……殿下は唯一無二の存在ですから。でもそうおっしゃられるならお祭り、楽しみます」


 ユーリに感謝を示されてアリアドネは少しだけだらしない幸せ溢れる笑みが止まらない。


 クリスティアの甘言に釣られて旅行に来たので正直、なにか悪巧みにでも巻き込まれるのではないかという疑いがまだ半分くらい残っていたのだがユーリの笑顔でその疑いが霧散し、ホイホイされて良かったと心の中で感涙の涙を流しながらガッツポーズするアリアドネは今日ベッドの中で何度もその高スチルを思い出すのだった。

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