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公爵令嬢はミステリーがお好き  作者: 古城家康
双子祭りの生け贄
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ディオスクーロイ公国②

「意外と観光客が多いみたいですね」

「そうだな」


 ごった返すというわけではないけれども賑やかなロビーに肩に積もった雪を払いながら驚いた様子のエル。

 そして隣のユーリも意外そうに辺り見回す。


 前日のお誘いに関わらずこうしてユーリが共に旅行へと赴けたのは、冬休みに入ったらクリスティアを旅行へと誘うつもりだったからで……。

 いい加減、ストーカーのようにクリスティアが旅行に行く先々で偶然を装い待ち伏せるのは自他共に気持ちが悪いなと思っていたし、エルからの年々強くなる軽蔑の眼差しを向けられ絶えられなくなってきていたので、正式に申し込んで共に出掛けられればなと思っていたので都合が良かった。


 ユーリとてストーカーのように旅行先でクリスティアの待ち伏せなどしたくはなかったのだが、クリスティアが旅行先で様々な問題を引き起こすのだ。

 国内でならばまだ見過ごすことも出来るが他国で不必要な不興を買い、ラビュリントス王国へと来た親善の使者から嫌味を言われること数知れず……。

 クリスティアが旅行に行くときはお前が見張っていなさいとユーリは王命まで受けている。


「冬場は費用が安くなりますので矜持が高いだけで旅費の捻出が難しい貴族からすれば丁度良い観光地なのではないでしょうか。旅行に行ったという体裁はとれますし。フロントに行って参りますのでお待ち下さいクリスティー様」


 ルーシーがあけすけな物言いをしてチェックインの確認をするため去って行く。


 確かに、冬のラビュリントス王国からディオスクーロイ公国へと向かう旅費は夏場に比べて半額になるほど割安なので名だけの貴族には丁度良いだろう。


 だがきっとそれも今年まで。


 そんな場所に王太子殿下であるユーリが現れたのだ。

 その噂はすぐにラビュリントス王国へと広まり来年からはユーリに会えるかもしれない期待から貴族達が押し寄せることとなるだろう。

 クリスティアに誘われなければ来ることはなかったのでホテルに迷惑が掛からなければいいのだがとユーリが気鬱な気分になっていればルーシーはすぐにここのホテルの者を連れて戻ってくる。


「この度は当ジェミナイホテルをご利用いただきましてありがとうございます、支配人のアメット・アームと申します。眺めの良い部屋をご用意しておりますのでご案内させていただきますサー」

「あぁ、ありがとう。心遣いに感謝する」


 支配人にしては年若く二十歳前半だろうか。

 ホテルの制服だろう黒いスーツに身を包み橙色の瞳を細めニッコリと微笑むと後ろに撫でつけた赤茶色の髪を揺らしたアメットは頭を垂れる。


 ユーリの名を聞けば近寄って挨拶をしてくるであろう貴族達を牽制するためロビーでその名を呼ばなかったのは非常に好感の持てる支配人だ。

 満足いく旅行になりそうな幸先の良い対応にユーリも微笑む。


「ではご案内をさせていただきます。皆様のお泊まりになられる部屋はまずこちらの専用エレベーターの乗降ボタンの下にございます黒い魔法鉱石に後程お渡し致しますルームカードを当てて頂くと直接上がれるフロアとなっております」


 ロビーの右手にあるエレベーターへと案内された一同が広いその中へと入るとアメットが手動で柵状のエレベーターの扉を閉めて持っていたルームカードを乗降ボタンの下にある黒い四角形のスペースに一度当てる。

 すると一瞬そこに魔方陣のような紋様が浮かび上がるとすぐに消え、エレベーターが動き出す。


「思っているより観光客が多いので驚きました」

「ラビュリントス王国の王都には比べましたら少ないですが、色々な国から皆様にお越しいただいておりますマイロード」

「王都をご存じなのですか?」

「えぇ、母の生まれはこちらなのですが私が生まれた頃にはラビュリントス王国におりました。高等部を卒業した折りに此方に来ましたので、私もこの地ではまだまだ新参者です。王都より随分と寒いので来たばかりの頃は大変苦労いたしました」


 身も凍る寒さとはまさにこの地のことを言うのだろう。

 だが彼はそれでもラビュリントス王国に留まるではなく、母親の故郷であるこのディオスクーロイ公国へと戻ることを決めたのだ、そして年若くもこのホテルの支配人という地位にまで上り詰めたのだ。

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