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公爵令嬢はミステリーがお好き  作者: 古城家康
双子祭りの生け贄
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旅行への誘い⑤

「アドネちゃん、ここまで言ってくれてるのだからお言葉に甘えたら?学園がお休みの間ずっと働きっぱなしだなんてお母さん申し訳ないわ……折角なのだからお友達と楽しんで欲しいの」

「いや、でも……」


 母親の懇願するような眼差しにアリアドネの言葉が詰まる。


 パシィは知らないのだ。

 アリアドネがクリスティアの提案に素直に頷くことが出来ない理由を。


 クリスティアとアリアドネの間には片方に都合の良い契約書が結ばれており、アリアドネは実質クリスティアの奴隷のような立場なのでこの旅行に付いていくとどんな悪事に荷担させられるか分かったもんではないということを。


 アリアドネの中ではまだクリスティア・ランポールという少女は乙女ゲーム、アリアドネの糸の中にいる悪役令嬢なのだ。


 しかしながらすっかりクリスティアに懐柔されている母親の親心をきっぱりと拒絶する冷徹さをアリアドネは備えていない。


「お母様も折角こうおっしゃってくださっているのですからその愛情にお甘えになられたらいいかがでしょう?あぁ、そうだわ。都合が良ければご一緒にいかがですかと殿下もお誘いしておりますのよ」

「で、殿下も!?」

「えぇ。宿泊する予定のホテルですがワンフロアが一つのお部屋になっており、サロンを中心にそれぞれが休むベッドルームに繋がる形になっておりますから……サロンではきっと殿下の多様なお姿をお目にかかれるかと思いますわ」


 その瞬間、ぶわりっと春の風と共に花びらが舞うようにアリアドネの脳内を妄想が駆け巡る。


 ポスターで見たお風呂上がりのユーリに抱き枕であった寝間着姿のユーリ、もしやもしやはだけた姿でベッドに横たわるグッズでも拝めなかったユーリのあんなスチルやこんなスチルを拝めるかもしれないと広がる妄想がR15指定からR18指定へと格上げし、アリアドネは胸の高鳴りで鼻の下が伸びそうになる。


「わ……分かったわよ、そこまで言うなら行ってもいいけど……それでいつ出発なの?」


 それを顔面に力を込めることで阻止したアリアドネは仕方ないという風を装って腕と足を組んでクリスティアから視線を逸らす。

 だらしない顔をキャラデザの至高と呼ばれたアリアドネ・フォレストがするわけにはいかない、花のように恥じらい微笑むのがヒロインだ……とは思いつつも普段使わない我慢の筋肉に頬はピクピク痙攣している。


「明日ですわ」

「えっ?」

「明日、出発いたします」

「えぇ!?」

「きっと素晴らしい旅行になるとお約束いたします。早朝に向かえに参りますのでアリアドネさんはどうぞその身一つでお待ちになられてくださいね」


 何故だろうか絶対に素晴らしい旅行にはならない気がする。


 こんな風に急に旅行に誘うなんてなにかしらの裏があるはずだと長年の乙女ゲームクリア経験から働く勘がこれはイベントへと突き進む良くないフラグだと訴えている。

 訴えているのだがユーリという餌がちらついているせいで断るという選択肢がアリアドネの喉の奥に引っ掛かって言葉として出て来ない。

 これが危険へと繋がるシナリオかもしれないということは十分に承知しているのだが既に理性という天秤は欲望へと傾いている。


 危険を冒してでも見たいのだ、ユーリのあんなスチルやこんなスチルを……!


 押さえきれない欲求に負け明日から旅行へと旅立つことが決定したアリアドネはどうぞこの選択がバッドエンディングのフラグではありませんようにとこの夜だけは借金を背負わした父親の友人への呪いでは無く自分の身の安全を星に祈るのだった。

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