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公爵令嬢はミステリーがお好き  作者: 古城家康
双子祭りの生け贄
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旅行への誘い①

「はぁぁぁぁ……疲れたぁぁぁぁ」


 ラビュリントス王国の平民街。


 商業街を抜けた先にあるレンガ造りの街並みの中を焦げ茶色の髪の毛を揺らし、深緑の瞳を薄汚れたブーツで踏みしめる石畳の地面へと向け淡い黄色の厚手のほつれているストールをポンチョのように被り丈が少し短い茶色のジャンパースカートの裾を揺らしながらトボトボと歩いていた、アリアドネ・フォレストは深い深いそれは深い溜息を吐く。


 昨日からめでたく冬休みとなったラビュリントス学園。

 学生の本分である勉強から開放感された喜びから遊びに……ではなく、朝から掛け持ちのバイトを一軒二軒三軒と梯子していたアリアドネはヒロインとは一体と……自分の存在意義を考える。


 アリアドネの糸という推理系乙女ゲームの世界に小林文代という人生から転生して早15年。


 断罪必至の悪役令嬢に転生……ではなく、ハッピーエンディングのシナリオに沿っていればイージーモード……とは言えないので(シナリオがほぼバッドエンディングなので)そのシナリオからは逸れるように上手いこと生きてきたはずのアリアドネはここ最近、周りで起きるシナリオに沿っているのではないかというくらいの(その度合いは軽微であるものの)絶えない苦労に深い溜息を溢す。


(いや、分かってる!ゲームの内容を知ってるんだからそれに沿って行動すればこんな苦労はしなかったはず!)


 誰か攻略対象を落とす前提でシナリオ通りに行動していればアリアドネは今頃掛け持ちのバイトを行き来する生活ではなく、ハッピーエンディングへと向かう攻略対象者との冬休みの楽しい王都デートを楽しんでいただろう。


 分かっている。


 こうなったのは全て自分の行動の結果だということくらいは。


 前世の記憶があるアリアドネはこの世界が乙女ゲームアリアドネの糸であるということは生まれたときから知っていた。

 知っていたからこそ自分に降りかかるバットエンディングのシナリオを回避するためにシナリオに沿わない人生を送ってきたのだ。


 ゲームでは亡くなっている設定の両親が生きていることだってその回避の一旦。


 それについての後悔はない。


 両親のことは大好きだし、前世で孝行できなかったぶん現世の両親のことを大切にしたいと心から思っている。

 思っているがこんなバイト三昧の状況に陥ったのは紛れもなくその生きている両親のせいなので、アリアドネは空腹にお腹を響かせながら今日何回吐いたか分からない溜息を再び吐きだす。


(借金が憎い……)


 ヒロインの両親というだけあってアリアドネの両親は人が良い。


 良すぎるというくらい良い。


 ゲームでもそうだったがアリアドネが過去を語るシーンで両親は近所に住む病気の子供を助けるためにアリアドネに聖女としての癒やしの力を使わせて、その力を利用しようとした悪い人達に殺されることとなる。

 そんな悪者達の手から逃げて孤児院で育つことになったアリアドネはそれ以降、自分が人と違う力を持っていることをひた隠しにするというのが物語の筋道だ。

 両親に自分の力を隠すことによってその筋道を消し、平穏無事に現在まで両親を生かせたのは良いもののシナリオの微々たる強制力なのか単純な両親の人の良さからなのかは分からないが今回、父親は友人の借金の連帯保証人になってしまった。


 なにか書類にサインをするときは相手の大切なモノを人質に取ってからしなさいと前世の兄が言っていた忠告が転生して身に染みるとは……。


 その友人に逃げられてこの冬休み前から借金生活の始まったフォレスト家は裕福というわけではなかったので今現在、ギリギリの生活を続けている。

 なんとか利息は支払ってはいるものの元々が食うに困らない程度の生活を慎ましやかに送っていたので元金の減らない借金生活。

 取り敢えずあの騙した父親の友人を見付けたら血祭りにあげてやるという望みと、この先ずっと箪笥の角で小指をぶつける呪いに掛かりますようにという呪詛を純真無垢な乙女のようにアリアドネは毎夜星に祈り続けている。


(はぁ……焼きたてのパン、食べたい)


 帰宅の道すがら嗅いだパンの匂いを思い出しながら空腹を訴えるお腹を押さえる。


 給料日の今日は大型の借金返済日だ(それでも元金は減らない)。


 日払いのバイト代と合わせて鞄に入っている給料袋は全て借金取りへの支払いで消えることが呪わしい。


 最近はアリアドネの糸に出てくる悪役令嬢にも目を付けられるしとことんツイていない……いや、もしかすると悪役令嬢が悪役令嬢じゃないこともアリアドネの不幸の一端なのかもしれないと辿り着いた一軒のぼろ屋を前にして名残惜しく給料の入った鞄を撫でるとその気持ちを振り払うように覚悟を決めて扉へと手を伸ばす。

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