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公爵令嬢はミステリーがお好き  作者: 古城家康
リネット・ロレンス殺人事件
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夜会での出来事①

「この度はお騒がせしてしまい申し訳ありませんわ侯爵閣下」

「いいえいいえ、中々刺激的な登場でしたよレディ」

「ご挨拶申し上げます王太子殿下、のちほど娘も紹介させてくださいませ」

「えぇ」


 でっぷり太った体を窮屈そうに金色のダブリットに納めたクレイソン侯爵と紫の輝くフレアドレスに身を包んだ夫人に狂騒を巻き起こした謝罪と挨拶を済ませるとクリスティアとユーリはあっという間に好奇の人波に取り囲まれる。

 皆、ユーリも居るので表面上は遠慮をして挨拶しかしないが、クリスティアにロレンス卿との事の子細を聞きたくて仕方ないのだろう。

 強者がそれを聞き出そうとそれとなくの話題を織り交ぜて聞こうとする度にユーリが間に入り牽制し追い払う。


 比較的大きな夜会。


 それを何度となく繰り返してユーリは疲れ果てる。

 皇太子という立場上、顔見知りまたはお近づきになりたいという貴族達が有象無象に押し寄せてくるのだ。

 招待されている上位の来賓者全てから挨拶が終わり下位の貴族を紹介されクリスティアの野次馬までもが交じり合う。

 挨拶だけで夜会が終わるのではないかと引き攣りそうな笑顔と枯れそうな声に一旦失礼して辺りを見れば筒形のケピ帽を被ったボーイがトレーに二つ飲み物を持ち辺りをキョロキョロ見回し歩いている。

 なるほど。ボーイは全てケピ帽を被っているらしく、夜会に不慣れな招待客でもボーイが分かるように配慮されているらしい。


「それは水か?」

「えっ?あっ、はい炭酸水でございます」


 辿々しい返事に初めての給仕仕事なのか、夜会の為に雇われたボーイなのかもしれない。

 アルコールが入ってないならば結構とそのトレーに乗っている飲み物を取ろうとすればこれは他のお客様から頼まれたものでと……っと戸惑われるが別のを改めて取って渡してくれと一蹴しユーリはグラスを取り上げる。


 こっちはもう喉が嗄れに嗄れているのだ。


 四季のあるラビュリントス王国では秋に近い季節だがまだ夏の暑さが残っている。

 泡立つ気泡を少しばかり口に含み、確かに炭酸水であることを確認してもう一つをクリスティアに差し出す。


「ありがとうございます殿下、わたくしへの挨拶は大体済みましたのであちらに座ってお待ちしておりますわ」

「あぁ分かった、私が迎えに行くまでそこを動かないでくれよ」


 炭酸水を一口、口に含んだ瞬間。クリスティアが不思議そうな……それでいて愉快そうな顔をするが喉の渇きが強すぎたのかそれを気にせず中身を飲み干すとグラスをユーリへと戻す。

 クリスティアが視線を向けた方向をみれば侯爵婦人が他の婦人達を連れて壁際に設置された天蓋下のソファーの上で談笑している。

 夫人に近付くことがこの夜会に出席した目的なのだろうから引き留める必要はない。

 ユーリもグラスをカウンターに戻すという終わりなき挨拶からの逃げ口を用意して貰ったので快くクリスティアの後ろ姿を見送る。


 こういう気の利いたところは出来た婚約者だ。


 バーカウンターにグラスを戻し、そのままカウンターに背を預けて離れた喧騒を眺めるようにユーリは辺りを見回す。


 あまり質の良い夜会ではない。


 教会へのチャリティーを目的としているのは名ばかりで、話している内容はどこそこの貴族に顔が利くだの自分の子は優秀だから是非官職に付けてくれだの……コネを広げ私腹を肥やす良い噂のない者達の文字通り下卑た振る舞いばかり、ランポール卿もどういう腹づもりでクリスティアの出席を許したのかとユーリは愚かな貴族達の顔を忘れないよう覚える。


 脈々と続く清らかだったはずの血筋はすっかり穢れに染まったらしい。


 その穢れはいずれ一掃するとしても今はその時ではないと分かっているので、ユーリは再び王太子殿下とのお近づきを狙う獣達の視線を感じて溜息を吐く。

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