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公爵令嬢はミステリーがお好き  作者: 古城家康
リネット・ロレンス殺人事件
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王太子殿下の苦悩⑤

「それよりも殿下、いつまでここにわたくしを閉じ込めておくつもりですの?」


 このままロレンス卿の話を続けても無意味、終わったことを顧みはしないクリスティアが大して減らしていない神経はもう完全に回復したのだからこの部屋から出ることを提案する。


 折角の贈られたドレスを披露すべく来た夜会に出られずにいるなんてそんな可笑しな話は無い。


 取り立てて社交が好きなわけではないが今日は気分が良いので是非とも皆と話したいクリスティアにユーリは、あんな血塗れの男を連れてきたのだから好奇の眼差しも受けるだろうし無遠慮で不躾な目にも遭うかもしれないと危惧して乗り気ではない。


「今日はもう帰るべきだと思うのだが?」

「あら、何故ですの?」


 何故もへったくれもない、退屈に飢えた猟奇の獣の群れの中にクリスティアを放流したくないのだ。

 心ない言葉や態度に傷つけられる姿を心配しているのではない。

 それはそれは楽しく自由に走り回るだろうことをユーリは心配し、嫌がっているのだ。

 無遠慮で不躾な目にあった分だけやり返すであろう婚約者の暴走を心底不安がっているのだ。


「殿下、わたくしを心配してくださるお気持ちは大変嬉しいのですが今日は公爵である父の名代ですのよ。せめてご招待を頂いた侯爵夫妻に先程のお詫びとお礼をいたさなければ……父の面目も立ちませんから」

「別に!心配などしていない!」


 本来招待されたクリスティアの父はどうしても外せない別の公爵家の夜会に出席しなければならないとのことでこの夜会の参加を最初は断ろうとしていた。

 しかしこの侯爵家に悪い意味で父親が興味を持っているというのは前々からクリスティアは聞き及んでいたので、それならば代わりに父との釣り合いが取れるよう婚約者である王太子殿下であるユーリを伴って出席すると申し出たのだ。

 なんの益にもならない娘を寄越すからといってもまたの機会にと体よく断られるかもしれないが、王太子殿下が夜会に来るとなれば公爵以上の価値となるので侯爵が無下に断ることもないだろう。

 それにロレンス卿の事件は退屈に飢えた侯爵夫人と仲良くなるきっかけにもなる。

 色々と探るために侯爵夫人とお近づきになりたいと思っているということはクリスティアから聞いてユーリも知っているのでその足を引っ張るつもりはないものの……。

 思いの外、早く信頼関係が気付けそうだと満足のクリスティアに対してユーリは、それはその身を危険に晒してまで得られる対価としては安すぎるとブスッと顔を顰め不満を表す。


「それにね殿下、わたくし今日の出会いはとても素晴らしいものになると思いますの」


 どうしてそう思うのかはユーリにはさっぱり分からないがとはいえ招待を受けて出席しているのだから顔を一度も出さずに帰るわけにもいかない。

 特別に部屋の用意もして貰ったのだからと恨めしい気持ちをクリスティアへと向け、深くて重い溜息をユーリは吐く。


「分かった、出ても良いが私から絶対に離れない!私の視界から消えない!分かったな!?」


 警告を込めて言うユーリに微笑むだけのクリスティア。

 長年の付き合いだからこそ分かる、クリスティアがユーリの警告を一切守る気がないことを。


 幼い日に取り交わされた婚約というのは何故こうも罪深いのか。


 ここはもうユーリがしっかりと目を離さないでおこうといらぬ苦労を買って出ながら渋々ながら華やかなる舞台にクリスティアと共に躍り出るのだった。

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