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公爵令嬢はミステリーがお好き  作者: 古城家康
乙女ゲームと遺言書の謎
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真実の意思③

「そ、そんなの……!私達、私達に!そんな!お父様!」

『……しはどうやって……再生……?違うこれは録画か?』


 リアドの新しい遺言書に愕然としていたエリンが動揺するような声を上げれば、消えたと思っていたリアドのホログラムが再び現れてシャンデリアを見つめる。

 その声にギクリっとエリンが怯えたように瞳を震わせる。

 どうやらリアドが先程の遺言書を再生しようとして録画機能を作動させてしまったらしい。


『なんだ、なにか用か?』

「続きがあるようですね」


 映像を止めようとしたエヴァンがその手を止めて再度シャンデリアを見つめる。


 浮かび上がったリアドは天井を見つめ困ったような顔をしていたが、コンコンっというノックの音が響きその顔を正面へと向けると眉根を寄せ椅子へと座る。


『話は終わっただろう!お前達は自分達の不始末を何度私に解決させる気だ!いい加減自分達の力で解決しないか!全く!ヴィオラの父親が死んでしまったことが悔やまれてならない!』

『父さんはいつだって亡くなった兄さんやヴィオラのことばかりだ!俺達だってこんなに苦しんでるっていうのに!』

『なんだと!アルフレドお前はっ!うっ!ぐっ!く、薬を……!』


 椅子の上以外は映像が映っていないもののアルフレドと言い争うような声が響き興奮したリアドが突然、苦しそうに胸を押さえ椅子に座る。

 震える手でズボンのポケットから取り出した薬を飲もうとすればその横から細く長い腕が現れて引ったくるようにその薬を奪う。

 リアドが瞼を見開き奪っていった手の方向を見る。


『エリン……お前……ッ!』

『お父様が私達を助けてくださらないからですわ!それは私達の苦しみです!少しくらい味わえば良い!』


 この状況が正当であるかのように叫び言い放った言葉に苦しみ眉を寄せたリアドは短い呻き声を上げると悟ったようにシャンデリアへと顔を見上げる。


 その瞳はシャンデリアを見て最後になにを思ったのであろうか……。


 宝探しを完成させられなかったヴィオラへの心残りかそれともこの死で苦しむことになるであろうエリンとアルフレドへの憐れみの思いだろうか……どちらにせよ家族のことを想ったであろうリアドは薄く笑った気配を漂わせ……そしてそのまま瞼をゆっくりと閉じる。


『お父……様……?』


 そしてそのまま苦しみのなくなったリアドの様子にエリンの戸惑うような声が最後に響いたところで映像が途切れ緊張感の持った空気が辺りに流れる。


 ガクガクと震える手で唇を押さえたヴィオラは驚愕に瞼を見開き、拳を握り締め怯え震えるエリンとアルフレドを見つめる。


「叔父様、叔母様……そんな……!そんなまさか!」

「違う!違うこれは!」

「アルフレド様、エリン様、真実は全て残されているのです。薬を奪い伯爵を死に至らしめたお二人が伯爵を自死としたのは薬の中身が残っていることを使用人達も知っておられたからでしょう。薬の管理は伯爵ご自身がされておりましたが、それがズボンのポケットに入っていることやどれだけ残っているかなどは町の薬剤師でも知っていることです。領民にとても誠実であらせられたのでしょう。伯爵が死に混乱するなかで思い至ったのは薬があるのに飲まなかったという前提は成り立たないということ。ですから中身を窓から捨ててそれを全て飲み干したことにされたのでしょう」


 書斎の窓下に植えられた花が枯れていたのがその証拠となるだろう。

 幸いにもリアドの検死では毒物検査はしなかった。

 誰も彼もリアドの功績を前に真実の死因を知るのが怖かったのだ。


 これで全ての糸が繋がったと詰め寄ったクリスティアに怯えるエリンは必死に頭を左右に振る。

 全て悪い夢だったのだと、それは真実ではないのだというように。


「ちが、違います!偽物です!こんな映像!偽物に決まっています!私達を陥れる為の!違うわ!私は、私はこんなつもりじゃ!」

「真偽は鑑定すればすぐ分かるさ」


 クリスティアに呼ばれた理由が漸く分かったとニールがエリンを捕まえようと近寄れば、ただただ震え俯いていたアルフレドが顔を上げる。


「くそ……くそくそくそくそっ!」

「アルフレド!」

「姉さんじゃない!俺だ!俺が父さんの薬を奪ったんだ!」

「きゃっ!」


 言い逃れは出来ないと悟ったのか、いやその罪を自分へと向けさせるための儚い行動だったのか……興奮したアルフレドが近くにいたフランの腕を掴んで引き寄せようとする。

 それにニールとラックが銃を構えようとホルスターに手を伸ばす。


「動くな!動いたらこの女を……!」


 実に愚かだ、愚かな選択だ。


 言い終わる前にフランを引き寄せようとしたアルフレドの腕を掴んだロバートがその横っ面を殴り飛ばす。


「フランに触れるな、穢れる!」


 反射的な反応だったのだろう。


 フランを抱き寄せてすぐその背に庇ったロバートが威嚇するようにアルフレドを睨みつける。

 横っ面を殴られて吹っ飛ばされたアルフレドは気絶はしなかったものの茫然として、なにが起きたのか理解していない様子で床に座り込む。

 その横に駆け寄ったエリンがただ静かに涙を流し抱き締める。


「良いのですアルフレド、ごめんなさい!私が、私が悪かったのです!」

「うっ、うぅ!」


 エリンの悲痛な声に我に返ったのだろうアルフレドが床についた両手を握り締めて子供のように声を上げて涙を流す。

 今にも腰の剣で斬りかかりそうなロバートを制止しながらラックが慌てたように間に入り、泣き崩れるアルフレドに戸惑いながらも手錠をかける。

 その横で弟の逮捕を見つめていたエリンにもニールが近寄る。


「よろしければ彼に付き添ってあげてください」


 手錠は必要ないだろう。


 静かに腕を上げたエリンの手を降ろさせたニールはアルフレドを示しその背を押す。

 その優しさと気遣いに感謝を示すように深く頭を垂れたエリンがラックに連れられたアルフレドに駆け寄り、気を強くあるようにと肩を抱き身を寄り添わせる。


 憐れな姉弟がこの遺言書を知っていれば……リアドの深い愛情を疑わなければ起こるはずはなかったであろう悲劇に誰もが胸を痛めるであろう。


 大人しく連行される二人を見つめながらたった一人、その愛情を疑わずマーシェ邸へと残されることとなったヴィオラは止まることのない涙を流し続けていた。

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