真実の意思②
「手がかりは遺言書に署名をしたジュアル・バートとベイク・カーツリーの状況です。彼らは伯爵が亡くなられたこの椅子に座り遺言書の紙に署名をして、そしてそれを読み上げたと証言しております。では伯爵は何故読み上げさせたのでしょうか?書き慣れているであろう自分の名前をわざわざ読み上げさせる必要はどこにもございません。間違いを心配したにしてものちほど伯爵の目で署名の確認をすればいいだけの話です。ですが伯爵はそうはしなかった……エヴァン先生、ミサ、どうですか?」
「うん、そうですね。君の見立て通り間違いなく魔法道具ですよ」
「私の情報データーでも間違いありません!ちゃんと録画もしてるみたいですクリスティー様!」
上を見ていたエヴァンがニッコリと微笑みシャンデリアの上にいるミサも元気に返事をする。
二人の返答にクリスティアも満足げに微笑み返す。
「発動はお出来になりますか?」
「壊れていなければスイッチが何処かに……ミサ分かりますか?」
「うーーん、机の上に微かですけど同じ魔力を感じます」
「あぁ、これですね」
こめかみを指で押さえ匂いを嗅ぐように鼻をヒクヒクさせながらうんうん呻っていたミサが書斎机を指差す。
探るように机の上を見たエヴァンがそれらしい小箱を取り上げ、開いてみればオルゴール箱だったらしく中のあるスイッチを押せば音楽が鳴り響く。
その音楽にクリスティアが少しだけ瞼を見開くが、声を上げる前にその音楽に呼応するようにシャンデリアが淡く輝く。
『……が、、、う……のか?映ってはいるのだろうか不安だな』
「お爺様!」
ノイズの入った声が書斎の中に響き渡り、輝くシャンデリアの光りが固定された椅子の上に降り注ぐと半透明の……だが厳然たる雰囲気を纏わせた人物が固定された椅子に座るようにして現れる。
リアド・マーシェ本人の姿だ。
その姿に唖然とする一同の中、ヴィオラだけがその愛おしい姿に思わず声を上げる。
『うむ、後で確認するからいいか。えぇ、世にも珍し映像機での遺言書をここに記そうと思う。この遺言書を見付けたということは宝探しが上手くいったということだろう。ヴィオラ、お前には常々学問は愚かであり無駄なものであると言ってきたがこの遺言書を見付けたということはどうやら私が間違っていたようだな。ならばお前の言うお前の信条を私も受け入れよう。私リアド・マーシェはこの邸と爵位をヴィオラ・マーシェへと相続させる。爵位は一時的に返上したように見せかけているが領民の支持を得られればお前が継承できるように手配をしている。だがこれは強制ではない。爵位を引き継ぐということは領民達に対して責を負うということだ。ここは肥沃な土地ではなく、交通の要所というわけではない。だが領民達は我がマーシェ家を愛してくれている。両親を亡くし此処で育ったお前ならばそのことは良く知っていることだろう。どうするかはヴィオラ、お前が考え決めなさい。そしてもし引き継ぐと決めたときは学問に精通したその知識を遺憾なく発揮し彼らの手助けをして欲しい。ではあとは我が娘と息子であるエリン・ソープとアルフレド・マーシェだが、彼らには細やかながら蓄えてあるマーシェ家の遺産を等分することとする。お前達の現状ならば少しくらいの手助けにはなるだろう、あとは自分達の力でどうにか立ち直りなさい。さて、では学問の前に私は完敗したようだ。ここにヴィオラ・マーシェの勝利を宣言するとともにリアド・マーシェの生涯唯一の敗北も宣言するとしよう。皆、愛しているよ』
そして日付を読み上げ優しく笑んだリアドの姿が消えジュアル・バートとベイク・カーツリーがそれぞれ映るとその名を音読する。
この遺言書を作成するために二人は自分の名を読まされたのだ。
「お爺様!」
しんっと静まり返った書斎部屋の中で再び相まみえたその恋しい姿に椅子の肘掛けに縋り付いて泣き出したヴィオラの声が響く。
そんなヴィオラの姿をエリンとアルフレドは顔を真っ青にし、拳を握り体を震わせ見つめている。
「ファブレ様、こちら遺言書としての効力は問題ございませんか?」
「えぇ、遺言書を紙で残すという法律はございませんから。問題なく受理されるでしょう」
懐かしき友人の姿に潤んだ瞳を押さえたジョナサンの胸は感無量で熱くなる。
一度目より二度目の、二度目より三度目の遺言書がこれほど素晴らしいとは……遺言書を見付けてくれたクリスティアには感謝してもしきれないと深く深く頭を垂れる。