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公爵令嬢はミステリーがお好き  作者: 古城家康
乙女ゲームと遺言書の謎
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真実の意思①

「ルーシー、どうでしたか?」

「クリスティー様のおっしゃる通りでございました。ベイク・カーツリーもジュアル・バートと同じ方法で遺言書にサインをしたとのことです。そして伯爵は馴染みの骨董屋で魔法道具を購入されたそうです」


 エヴァンの話を聞いた後、マーシェ邸から共に帰って来ていたルーシーに急ぎ頼んだお使いの結果報告を受けたクリスティアは渡された魔法道具のリストを見て満足のいく内容にニッコリと微笑む。


 これで全ての真実が揃ったのだ。


 リアドが最後に残した勝利への礎の意味もこれがあればこそ理解できたことなのだと湧き上がる興奮にクリスティアは身を震わせる。


「では、皆様にもう一度マーシェ邸へとお集まりいただきましょう」


 今すぐにでもマーシェ邸へと乗り込みたい逸る気持ちを抑え、丁重な招待状を送ったクリスティアの号令の元、再度集まったマーシェ邸の書斎。


 カーテンの閉まった薄暗い部屋の中に先だって遺言書の開封時に居たヴィオラ、エリン、アルフレド、ジョナサン、ユーリ、エル、ジョージ、フラン、ロバート。


 そして新しく参加となったのは天井を興味深げに見上げているエヴァンとその肩に魔法道具であるミサが乗り、閉められた扉の横には対人警察のニールとラックが身を凭れさせ立っている。


「僕らはなんで呼ばれたんですかね?」

「知るか」


 対人警察である自分達が呼ばれた理由はいまいち分からないが警察を誰か立ち合わせて欲しいというクリスティアからの要請によりニヤニヤとしたヘイリーによって送り出されたニールとラック。

 お金ばかり数えさせられていておかしくなりそうだったので気晴らしになるのは良いが、クリスティアに傷一つでも付けばヘイリーにニールとラックが血祭りに上げられるだろう。

 怠い気持ちの中でも一応緊張感は持っておく。


「皆様お忙しい中、再びお呼びいたしましたこと誠に申し訳ございません。そして場所を提供してくださったマーシェ家の皆様には深く感謝を申し上げます」

「お父様の遺言書に間違いがあったとのことですが……本当なのですか?」


 クリスティアが深々と頭を下げ、再度の集合をお詫びすればエリンが不満げに顎を上げつつも期待を込めた眼差しを向ける。

 他人の家を引っかき回して余計なことをしてくれた張本人であるクリスティアの再度の来訪はエリンやアルフレドにとって大変な不愉快であり不服だっただろう。

 けれども新しく見付けた遺言書にも間違いがあったのだと知らされれば場所の提供をせざるを得なかったのだ。


「えぇ、わたくし愚かにも先日見付けた伯爵の遺言書が一番新しい遺言書であり正式な物であると信じておりました。ですがそれは思い違いであることがこの度明らかになりましたので訂正させていただきたいのです」

「やっぱりな!あの遺言書は偽物だったんだろう!」


 恥じ入るようなクリスティアにアルフレドが勝者のような声を上げて糾弾するが、筆跡鑑定までしているのに偽物で有るはずがない。

 その糾弾は筆跡鑑定人を選定したユーリの非をも訴えていることになるのだが……意気揚々とした愚かなアルフレドはそんなことは露ほども思っていないようだ。


「いいえ、アルフレド様。筆跡鑑定も行いましたし偽物ではございませんわ」

「あぁ、私が紹介した筆跡鑑定人はその道の権威であり公明正大な人物なのだが……なにか疑うことがあるのだろうか?」


 自分がなにを言ったのか気付いたのか、ユーリの笑っていない微笑みを見たアルフレドはビクリと体を震わせて、そのようなつもりは……と蚊の鳴くような声を上げると口を閉ざす。

 五月蠅く文句を言われ続けられると話が先に進まず困ってしまうので、ユーリにはそのままアルフレドを威嚇しておいてもらったほうが都合が良いだろう。


「言い訳がましいですけれども先だって見付けた遺言書はあれはあれで本物なのです。ですがあれ以降に伯爵はもう一つ遺言書を残しておいでなのです。そしてそちらこそが本当の新しい遺言書であり、伯爵が最後に残された意思となることでしょう。わたくし伯爵の手紙の最後がどうしても気になっておりました。勝利の礎とはなんなのか?一体なにに対しての勝利なのか?」

「意味がある言葉なんですか義姉さん?」

「えぇ、エル。むしろ伯爵にとってはそれが重要なことだったのです」

「重要……ですか?」

「わたくしが見付けた遺言書の内容をよく思い出してみて下さい。学問に寄付することが何故伯爵の勝利となるのでしょうか?」

「……言われてみれば。伯爵にとって学問は忌避すべき存在でしたよねヴィオラ先生」

「は、はいジョージ坊ちゃま……確かにそうです」

「でしたらその学問に遺産を寄付するということはその信条を曲げるということです。伯爵が勝利者であるはずがない……そういうことですよねクリスティー?」


 ジョージに言われてその不自然さに今更ながらに皆、気付く。


 そうだ、学問に寄付するということはリアドの信条に反すること。


 もし、死を目前にしてヴィオラのためにその信条を曲げたとしたのならばそれはリアドの勝利ではなく、ヴィオラの勝利となるはずだ。


「えぇ、そうですジョージ様。わたくし、そのことは最初遺言書をお聞きしたときから疑問に思っていたのですけれども素晴らしい遺言書でしたのできっとわたくしなどには計り知れないなにか、家族にしか分からないなにか深いお考えがおありになるのであろうとそう思っておりました。ですがそれが間違いだったのです」

「ご高説は結構です、一体もう一つの遺言書は何処にあるというのですか?」


 勿体ぶったクリスティアの態度に痺れを切らしたエリンが苛立たしげに声を荒げる。


 そんなに焦らなくても遺言書はその場所から離れられないのだが……そこまで待ち望んでいるのならばその期待に応えるべく、クリスティアは先程から天井を見上げているエヴァンとケイセイバナの花が咲くシャンデリアの上を綱渡りのように歩いているミサを見る。

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