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公爵令嬢はミステリーがお好き  作者: 古城家康
乙女ゲームと遺言書の謎
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新たな遺言書①

 宣言通り朝食後。


 ルーシーが連れてきた新しい訪問者が訪れたタイミングでサロンから移動してもらった書斎。

 思い思いの場所に座ったり、立ったりしている一同はリアドの遺体があった椅子を避け、忌まわしき場所への集まりに暗く重苦しい空気を漂わせる。


「えぇと……私は何故呼び出されたのですかな?」


 その重苦しい空気を戸惑いに変えたのは四脚の椅子のうち扉側の一つに座るジョナサン・ファレブ。

 齢六十歳の過ぎた老齢たるが紳士であり、彼はマーシェ家の顧問弁護士でもある。


 小柄な身長に真っ直ぐ伸びた背、白髪頭の髪は細やかに生えている程度で広い額の下に長い白い眉毛、丸眼鏡の奥で穏和な灰色の瞳が垂れた瞼に隠れながらも一同を探るように見つめている。

 一見柔そうな好々爺に見えるジョナサンだがこう見えて弁護士としての経歴は一流で、王都には彼を顧問として迎えたいと望む貴族達が大勢おり、破格の給料を提示されたこともある。

 だが先の戦争で孤児となったジョナサンは自分を拾い育ててくれたリアドに大変な恩を感じており、マーシェ家を守ることを一生の使命としてその全ての誘いを断っている。

 ルーシーの朝早くの訪問にも関わらずこの場に馳せ参じたことを思えばその忠義はリアドの死後も揺るぎなく続いていることが知れる。


 隣にはヴィオラが憂鬱そうな表情を浮かべて座っている。


 祖父の名誉を考えて隠していた自死という事実をクリスティアに暴かれた後なので気が重いのもあるだろうが、祖父の亡くなったこの部屋自体にあまり立ち入りたくはないのだろう。


「申し訳ございませんファレブ様、急にお呼び立てをしてしまって。実はわたくし伯爵の遺言書を新しく発見いたしましたので顧問弁護士であるあなたにご確認をしていただきたいのです」

「なんですと!?」


 驚き声を上げ垂れていた瞼を見開いたジョナサンは興奮した様子で座っていた椅子から立ち上がり、リアドが亡くなっていた背もたれ椅子の後ろにユーリとエルに挟まれるようにして立つクリスティア見つめる。

 その眼差しには期待と希望が込められており、自身が公開したリアドの遺言書に納得していなかったことが覗える。


「本当ですかご令嬢!?」

「えぇ」

「そ、そんな馬鹿な!そんなもの一体何所に……あり得ない!」

「えぇ、新しい遺言書など……考えられませんわ」


 ジョナサンの声を遮るようにしてその向かいに座っていたアルフレドが動揺したような声を上げ前のめる、そして隣に座っていたエリンが疑わしげにクリスティアを見つめ心底不愉快そうに眉を顰める。

 遺産の相続がある二人にとってはその新しい遺言書の内容次第では納得できない事実となるだろう、すぐさまそんな物は無いという反論が上がる。


「今はまだわたくしの手元にはございません。皆様とご一緒にお探ししようと思っております、伯爵もきっとお喜びになられますわ」


 愉快そうに微笑んだクリスティアは宝物を探すハンターのように狙いを定めて緋色の瞳を細める。

 その、この中の誰も知らないことを自分だけが知っているのだと優越に浸り人を嘲ているように見える態度に(実際は謎解きを純粋に楽しんでいるだけ)、このような忌まわしき場所でなんたる慎みのない行い、不愉快極まりないとアルフレドが声を荒げる。


「はっ!馬鹿馬鹿しい!父の死を娯楽かなにかだとでも思っているのか!甚だ不快だ!」

「まぁ、そのようなつもりはございませんわアルフレド様。わたくしはただ亡き伯爵のご意思を正当にお伝えすることがマーシェ家の皆様の為になると信じているだけです」

「な、なんて無礼な!」


 それはアルフレドが正当性を望んでいないと言っているようなものだ。


 興奮したように椅子から立ち上がり今にもクリスティアへと飛びかかりそうなアルフレドに、隣に立つユーリが庇うように腕をクリスティアの前に出し、エルが一歩前へと歩み出る。

 そして不本意そうだがエリンとアルフレドの間の後ろの壁にもたれていたロバートもなにか起こればすぐにアルフレドを止められるよう二人の間へと入れるような体勢を取り、扉の横に控えていたルーシーもあと一歩アルフレドがクリスティアへと近寄れば腕に仕込んでいる隠しナイフを飛ばしてやろうと殺気立っている。


 だが、その怒りをエリンが腕を掴んで押し留める。


「そのように興奮なさらないでくださいアルフレド様。今更色々と申したところで全て済んでいることですわ。実は昨日、お二人がお出掛けになられている間にこちらの書斎を調べさせていただきましたの」

「なっ!?」

「……随分と勝手なことをなさったのですね」

「申し訳ございませんエリン様。ですが邸を見て回っておりましたら偶然、知ってしまったのです。人というものは隠されていることがあるとその隠されていることがなにか知りたいという好奇心が押さえきれなくなるものでございましょう?」


 ヴィオラに頼まれたことは黙っているつもりらしく、本当にたまたまだと白々しくクリスティアは申し開きをする。

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