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公爵令嬢はミステリーがお好き  作者: 古城家康
乙女ゲームと遺言書の謎
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夜の散策④

「なにか分かったのか?」

「手をお貸しいただけますか?」


 壁の小窓をじっと見つめていたクリスティアのその真剣な眼差しにユーリが遺言書に繋がるなにかが分かったのではと期待を込めて問えば、クリスティアはなにも答えずに手を差し出してくるのでその手を下から支えるようにユーリも差し出し、掴む。


 スツールから床へと軽く飛ぶように降りたクリスティアは手を離し、そのまま子馬の視線の方向へと歩いて行く。

 歩いた先にはランタンの明かりに照らされた小さい椅子、その背もたれを掴み固定されていることを確認すると、階段ほどの高さしかない座面へとクリスティアは立ち上がり壁の小窓を覗く。


「ロバート様の身長はどれくらいでしたでしょうか?」

「ロバートか?確か180センチくらいだったはずだが……」


 なにをしたいのか分からないが小窓から差し込む月明かりに照らされたクリスティアのその姿は横から見るとストールに覆い隠せていないしなやかな腰から首にかけての細いライン、無防備に降ろされて頬や肩を撫でるように揺れる金の髪が眩惑的で美しく視線を奪う。


 だがしかし、横からその姿を見ているぶんには現実的で十分に魅力的な姿だが、庭からこの小窓から覗くクリスティアの頭だけを見た者はその幻覚的な姿に幽霊かと思い心底驚くだろう。


 ドッペルゲンガーではなく小窓から覗く金髪の少女のお化けという新たな怪談が生まれなければいいがとそんなことをユーリが視線を逸らし考えていれば、小窓の外を一通り見て満足したのかクリスティアは椅子から降りる。


「もういいのか?」

「えぇ、もう十分に分かりましたので」


 満足したようにスツールの横を通り過ぎてそのまま狩猟部屋から出ていくクリスティアの後に続き、ユーリも外へと出る。

 聞いたところでなにに満足したのかを答えてくれるとは思っていないので聞くことはしないが、これで大人しく自身の部屋へと戻ってくれるのかと安堵すればその足は階段へと向かうのでユーリは慌てて止める。


「待てクリスティア、部屋へ戻るのではないのか?」

「いいえ、戻るなんて一言も申しておりませんわ」


 ニッコリと微笑んで階段の手すりを掴んで振り向き、ランタンをユーリに向けるクリスティア。

 このまま一人にするわけにはいかないので一階に降りるならばユーリも共に行くしかない。


 この時、ユーリは自分が水を飲みに行こうと思っていたことをすっかり忘れていた。


「殿下がドッペルゲンガーに成り代わられてしまったらわたくし困ってしまいますので厨房へご一緒いたしますわ。わたくしの探索にご協力いただきましたし……ホットミルクを作ってくださいませ」

「……私が作るのか?」


 忘れていたのだが、それをクリスティアに言われて思い出す。

 そういえば喉が渇いていたのだ。


 どうしてユーリが厨房へと行こうとしていたことが分かったのか……。

 きっと些細な仕草を見て推理したのであろうクリスティアの観察眼に感服し、どんな些細な料理でさえもクリスティアに任せられないことを理解しているユーリは共に厨房へと行くこととなる。


 クリスティアは勉強も運動も基本はなんでも出来るが料理の腕前だけは酷いのだ。

 幼い頃、忍び込んだ厨房でその料理とはいえない手料理を作り食べさせられたユーリとハリーは何度も酷い目にあっている。


(なぜ分かったのかは分からないが……例え私がドッペルゲンガーに成り代わられたとしても、クリスティアならばすぐに見破りそうだな)


 その観察眼を持ってすればユーリが同じ顔の別人へと成り代わったとしても、あなたは別人だと華麗に見破り疑心暗鬼というドッペルゲンガーを辺りに生み出す前に暴いてくれるのがクリスティアなのだろう。


 そしてその推理力を持つ彼女こそ間違いなく本物のクリスティア・ランポールなのだ。


「どうかしまして?」


 それならば例え自分に似たドッペルゲンガーなる幻影が心の片隅に湧いたとしても不安はない。


 すっかり消え去ってしまったドッペルゲンガーという幻覚に、立ち止まっていたユーリを促すように再度ランタンを掲げたクリスティアになんでもないと頭を左右に振ったユーリは、海を照らす灯台のような明かりを目印に厨房へと向かうのだった。

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