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公爵令嬢はミステリーがお好き  作者: 古城家康
乙女ゲームと遺言書の謎
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夜の散策③

「そういえばドッペルゲンガーなんてそんな幽霊のような存在、本当に居るのだろうか?同じ顔を持つ人間なんて……ただ単純に他人のそら似だろう」

「殿下、馬を見て人を連想なさるのはあまり良いことではございませんわ。今頃ラックがくしゃみをしておりましてよ」

「……私はこれを見てラック・ヘイルズを連想したなどと一言も言っていない」


 つまりクリスティアもこの子馬を見てラックに似ていると思ったのではないかと、自分のことは棚に上げて人を窘めるその顔をジロリと非難がましく見つめれば誤魔化すようにニッコリと微笑まれる。


「全てはもしも、の話です。もし自身がドッペルゲンガーの存在を疑うのであれば例えそれが他人のそら似だったとしても他者が判別出来ないほどに似ているのだから自身を消して成り代わる悪意のある存在なのではないかという不安を煽る幻影となります。そして他者が疑うのであれば……顔形は上手く誤魔化せても性格や仕草までを似せることは出来ないと今まで気にもしなかった些細な言動や仕草にも注意がいくようになります。親しい者達はきっとその今まで気にもしなかったことを見て何処か違う何かがおかしいもしかしたら別人なのではないかと疑心を持ちます。それが本物だとしても……そういったどちらであろうとも襲い来る不安、疑心などが実体のないドッペルゲンガーとなるのでしょう」

「人の心に湧く幻影ということか」

「殿下、今こうして話しているわたくしが本物のクリスティア・ランポールだと何故そう思われるのですか?」


 その言葉にギクリとユーリの体が強張る。


 淡く光るランタンを持ち上げて緋色の瞳を細め怪しく微笑むクリスティアが告げる言葉。


 そうだ……どうして今、目の前に居るクリスティアが本物なのだとユーリに言えるのだろう?


 そもそも気になったからという理由だけで貴族の令嬢が他人の邸をこんな夜中に一人で出歩くだろうか?


 クリスティアならば平気で出歩くだろうという今までの経験があったからこそ不審に思わなかったが……通常疑問に思うべきことを改めて疑問として示されるとユーリの心は戸惑い、疑心というドッペルゲンガーを今、生み出そうとする。


「君は君だろうとしか言いようがないな」

「酷く曖昧で確証のない答えですわ。でもご安心下さいわたくしはわたくしですわ、ただしそれを証明する方法はわたくしですらございませんけれども」

「怖いことを言わないでくれ……」


 クリスティアによって植え付けられた猜疑心に背筋がゾワゾワと粟立つ。


 そう、その言葉にすら証明はないのだ。


 なんだか自身の存在まで曖昧になりそうな問答にクリスティアはクリスティアなのだと、こんな厄介な婚約者に似たドッペルゲンガーなど居るはずがないと疑心を振り払うように深く考えることをユーリが止めれば、スツールを見て鞍へと手をついたクリスティアはそれに身を乗せようと苦闘し始める。


「なんだ、乗りたいのか?」


 少し高さがあるので足場がなければ女性が乗ることは難しいだろう。

 なんの気なしクリスティアに近寄り身を屈めたユーリはそのままその腰を掴み抱き上げるとスツールへと横乗りに乗せる。


 瞼を瞬かせて突然起きた出来事に驚いた表情を浮かべるクリスティア。


 その表情が非常に珍しい表情だったので、もしかしたらこれはドッペルゲンガーが浮かべた表情なのかもしれないとそんな馬鹿なことを考えながらユーリはその顔を見つめたままどうしてそんな表情をするのかと考える。


 そしてすぐさま自分がなにをしたのか理解をして、顔を赤く染める。


「ち、違う!君が乗りたそうだったから抱えただけで!私はなにもやましいことは考えていない!」

「えぇ、ありがとうございます殿下。ですが幼い頃ならばいざ知らずわたくしももう分別のない子供ではございませんので急に触れられるのは少しばかり恥ずかしいですわ。異性には考えてから触れてくださいませ」

「わ、分かっている!」


 ただ幼い頃から見知っているせいで距離感が無かったのだ!


 からかいを含んだ笑みを浮かべるクリスティアに、思っている以上にユーリのほうが恥ずかしくなって暗がりの中でも分かるほどに赤くなっているであろう顔を片手で覆う。


 その火を噴きそうな顔がこれ以上赤くならないよう微笑みながらユーリから視線を外したクリスティアは横乗りに乗ったまま子馬が見つめる方向を同じように見つめる。

 真っ直ぐ灰青色の瞳と緋色の瞳とで見つめる先には壁と庭側を見下ろす小さい嵌め殺しの窓があり、その小窓の下には子供用の背もたれ椅子が壁にピッタリくっついた状態で窓の方向を向いて置いてある。

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