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公爵令嬢はミステリーがお好き  作者: 古城家康
乙女ゲームと遺言書の謎
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来客者達の密談③

「遺言書なんて、本当にあるのか?」


 実りの無いまま時間だけが過ぎる捜索にロバートが訝しむのも尤もだ。


 あるという確証としてはジュアル・バートとジョナサン・ファブレの二人が署名させられたという白紙があるということだけ。

 それすらも遺言書ではないただの手紙だった可能性もあるし、遺言書だったとしても内容を書く前にリアドが破棄をしたり亡くなった可能性もあるのだ。


 このまま探し続けて意味があるのかと苛立ったように座っていた三人掛けのソファーから立ち上がり別のソファーに座ったロバートにクリスティアは不思議そうに頭を横に傾ける。


「何故、座る場所を変えられたのですかロバート様?」

「えっ!?べっ、別に関係ないだろ!?」


 何気なく気になったのでクリスティアが指摘すれば、驚いたようにロバートは焦り声を荒げる。


 何故そんなに驚くのか分からないが、指摘されたくないことだったのだろう。


 進展しそうでしない遺言書の捜索にヤキモキしていた気持ちを晴らすようにニッコリと微笑んだクリスティアの笑みに、ユーリはハッキリとした黒い角と長い尻尾が生えるのを見る。


「気になったのです、何故変えられたのですか?」

「それは……ただ座り心地が悪かったから……」

「でももうあちらの椅子に座られて随分経ちますわ。今更座り心地が悪かったなんて……今お座りのソファーも同じメーカーで大量生産品ですのよ?」


 違いがあるとすれば三人掛けか二人掛けかの差くらいだ。


 ただ座る椅子を変えただけだというのになにをそんなに気にするのかと、追求するクリスティアにどんどんと手に汗を掻いてズボンをきつく握りしめるロバート。

 可哀想なくらい動揺している哀れな子羊に助け船を出すべきかとユーリが口を開こうとすれば、それより先にロバートがあわあわしながら口を開く。


「だから、その……!こんなことでもない限りフランの姿をゆっくり見れないから!」

「えっ!?」


 突如呼ばれた自身の名に、フランの肩が驚き跳ねる。


 真っ赤になって俯き、正直に白状して頭を抱えたロバート(こういうときに嘘を吐けずに素直に白状してしまうところが無愛想なロバートが誰からも好かれる所以でもある)が最初に座っていたのは三人掛けのソファーの扉側の一番端だ。

 クリスティアから見れば対面にフラン、ジョージ、ロバートの順で座っていたのでその位置からでは横目に見ても隣のジョージが邪魔でフランの姿は見えなかったのだろう。

 フランの姿をそれとなく見るためにはユーリの座る一人掛けの椅子の対面にある二人掛けのソファーに座るのが一番良い方法だ。

 それに気付いてつい欲を出したらしく、あんな不自然なタイミングでロバートはソファーを移ったらしい。

 座った場所もロバートが元々座っていた側に近い方ではなく、クリスティアとエルが座るソファー側に座ったのも、よりフランが見えると考えてのことだったのだろう。

 本人が居る前でこんな恥ずかしいことを白状させられたロバートはフランに気持ち悪いと思われたのではないかと青いのか赤いのか分からないが気まずそうな顔をしている。


「僕の可愛い妹を邪な気持ちで見ないでくれるかなロバート?フラン、座る場所を変えようか?」

「よ、邪な気持ちでは!?」

「邪以外の気持ちなんてないだろう、私も席を移ろう」

「殿下まで!」

「どうぞ僕が席を譲りますので義姉さんの隣に座ってくださいフラン様。ロバート様はあちらの隅の椅子で壁に向かって座ってください。皆が安心します」

「何故だ!?」


 その気持ちに純粋なものなど一つもないと一同が断言する。


 邪な慕情をフランに向けるなとジョージが笑っていない目で口角を上げてフランへと向けるロバートの視線を遮り、ユーリが呆れた顔で一人掛けのソファーからジョージの隣へと移動する、そしてエルが蔑みの目をロバートへと向けてフランに席を譲る。

 フランは気まずそうにジョージの隣から立ち上がりクリスティアの隣へと腰を下ろす。


「ふふっ、ロバート様の前には立ちはだかる紳士が大勢いらっしゃいますわね」


 淑女の鏡たるフランは全ての人に好まれている、彼女を害する者は全ての人を敵に回す覚悟をしなければならないのだ。


 そしてその最たる敵はクリスティアなのだろう。


 お前が余計なことを言わなければと唇を噛みながらも大人しく部屋の隅に置かれた丸椅子へと追いやられ壁に向かって哀れにも縮こまるロバート。

 その日、三人掛けのソファーに座るジョージ、ユーリ、エルという壁によって視線を遮られたロバートは名残惜しげに後ろを振り向いたとしてもクリスティアの隣に座るフランの姿を拝むことは二度と出来なかった。

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