来客者達の密談②
「ルーシーはどうでした?ジュアル・バートからなにかお話は聞けて?」
「いいえ、クリスティー様。有力なことはなにもございませんでした。ジュアル・バートはリアド伯爵に書斎に呼ばれ、椅子に座り白紙の紙に名前を書かされ、それを後ろに居る伯爵へとお読みしてお金を貰って退出したそうです」
「……声に出して読んだ」
「はい。それと帰りにリアド氏に薬を調合しておりました薬剤店へと赴きました。薬は伯爵が直接管理をされおり、いつもズボンのポケットに入れておられたそうです。リアド氏は剛健な方でしたけれど病気が悪くなるにつれて大変気が弱っていたので心配していたと店主は酷く残念がっておりました」
「まぁルーシー、あなたったらどうしてそんなに気が利くのかしら。ありがとう」
薬剤店まで行くという侍女の機転の利く行いにそれでこそルーシーという名に相応しきわたくしの侍女だとクリスティアは満足する。
気が弱っていたのならばエリンが言っていたリアドの爵位に関しての後悔というのも偽りではないかもしれない。
「勿体ないお言葉でございますクリスティー様。それと検死を行った医師はその薬剤店の息子だそうです、リアド氏とは厚く親交があったと申しておりました」
「そうなのね……ヴィオラ様が別の遺言書があるかもしれないとお考えなのは手紙のことも要因でしょうけれど、伯爵の死因に根差しているのかもしれませんわね」
クリスティアはなにかを考えるように椅子に深く体を預ける。
その少しばかり険しく難しい表情を浮かべたクリスティアが今、なにを考えているのかはこの場に居る誰も分からない。
「クリスティー様。ヴィオラ様がいらしたのでお話しするのを躊躇ったのですが……エリン様の嫁がれた子爵家は先の干ばつで税収が減っており、アルフレド様は賭博で借金を抱えております。それとこの数日、邸で働いた感想といたしましてはエリン様は横柄なところがあり、使用人が些細なことでもミスをすれば減俸か暇を出しております。アルフレド様は色事を好む傾向があり、過去には使用人にも手を付けております。伯爵はお二人には非常に頭を悩ませていたようでございます」
アリアドネが聞いた使用人達が遺産をヴィオラにと思う気持ちも二人の振るまいを見れば納得できることだとルーシーは些か呆れた様子でクリスティアに報告をする。
「まぁまぁ、あなたは大丈夫だったのルーシー?」
「アルフレド様には私も何度かお声を掛けていただきましたが……丁重にお断りをさせていただきました」
「そうなのね、良かったわ」
その丁重の中には口には出せないようなお断りの方法も入っているのだろう。
証拠が残らない非合法スレスレを狙って問題を解決することはクリスティアという良くない教師を見て学んだルーシーの手法でもある。
アルフレドがルーシーの好みでないことは分かっているので付け入る隙はなかっただろうが(ルーシーの好みは名実ともにクリスティアなのでクリスティア以外は動いて喋る下等動物だと思っている)、可愛い侍女に不埒なことがなくて良かったとクリスティアは安堵する。
「ではルーシー、お二人ともお金に困っておいでなのね?」
「はい、クリスティー様」
二人ともそれなりに抱えている問題があるらしく。
アルフレドと話してみてエルが感じた金銭的な問題の印象はあながち間違いではなかったようなので、義姉の役に立てたことが嬉しいのか少し得意気にクリスティアの隣でエルは胸を張る。
「しかしお金に困っていたとしても開封した遺言書は金庫に保管されていたわけなのだから、偽物というわけではないのでしょう?」
「例え偽物でないとしても新しい遺言書が出てくると困るってことになるだろうジョージ。それに伯爵の遺体を発見したのはミセス・エリンだ、もし新たな遺言書が伯爵の遺体の側にあったのだとしたら……その中身を確認するのが人の性というものだ」
ユーリの言うことに確かにと一同は納得する。
それは疑わしい事実なのかもしれない。
第一発見者であるエリンが遺言書に気付きその中身を見たとしたら……もしそれに全ての遺産はヴィオラに譲ると書いてあったとすれば……。
先に見付けて自分に利がないと分かればエリンが遺言書を破棄した可能性も十分に有り得るということだ。
そうなるともう新しい遺言書が残っているという可能性は低いだろう。
破り捨てるか燃やして無き物にしてしまえば遺言書があったという証拠もなくなり……こうやって皆で探し続けてもなんの意味もない。