来客者達の密談①
その日の夜。
ビーツがふんだんに使用された夕食後の歓談で集まったサロンでエリンとアルフレドは早々に眠につき(というかルーシーが一服盛って眠らせた)、クリスティアとユーリにエル、フランとジョージにロバート、そしてルーシーは今日の収穫の報告をするため残っていた。
扉の外ではアリアドネがこっそりと見張り役を務めており、なんで中に入れないのっとぶつぶつ文句を溢している。
先程までサロンの捜索の結果を報告していたヴィオラも居たのだがルーシーが準備した睡眠薬入りの紅茶を間違えて一口飲んでしまったらしく、どれだけ強力な睡眠薬なのか分からないが押さえきれない眠気に負けてしまい部屋へと戻ってしまった。
戻る前に書斎にあった固定された椅子のことをクリスティアは聞いてみたのだがなにも知らないとのことだったので、誰にも知らせずにリアドが設置したのだろう。
もしかすると遺言書探しをする者を惑わそうと悪戯心で設置したのかもしれない。
「新しい遺言書の手がかりはあったのか?」
「なにもありませんでした殿下、無駄骨です」
一日外出させられていて邸でなにがあったのか知らないユーリの問いに、不満を表すような声を上げたロバートは否定の意味を強く込めて頭を左右に振る。
こんな辺鄙なところにまでフランを連れてきて見付けたのはなにもないという結論だけ。
全くもって無駄であると憤り気味のロバートだが、こんなに長い時間フランと共に居られることはなかったのでそこは感謝している。
「皆様が探した他の部屋にはなにもございませんでしたか?」
「僕は娯楽室を探したけど特になにか怪しいものはなかったかな。その後で庭も見回ったけれど庭作業の道具小屋や水の涸れた噴水があるくらいで……怪しいものはなにも」
「俺は狩猟室を探したが遺言書は無かった。変わったところといえば小型の馬のスツールがあったことだな」
「馬のスツールですか?」
「伯爵自ら作ったのだろう、彫った木の馬に皮に似せて作った布を被せてある物で本当に良く出来てたスツールだ。最初は剥製かと思ったくらいだからな」
「見紛うほどのそれが剥製ではなく、何故スツールだと分かったのですか?」
「鞍がついていたからな、剥製には普通つけないだろう。何故鞍がついているのかと不思議に思って触れたら木材で驚いたんだ。あとは窓に向かって固定された椅子があったことくらいだな」
「まぁ、そちらにもございましたのね」
ここの主だった伯爵は余程転ぶのが嫌だったのか。
書斎と同じく固定された椅子がある狩猟室にクリスティアは訝しむ。
「殿下とエルはエリン様とアルフレド様の双方からなにかお聞きできましたか?」
「えぇ、義姉さん。アルフレドは甘やかされたぼんくらで商売の才能はないですね。僕に必ず儲かる投資話があるといってそれに一口乗ったという話をしていましたけどあれは典型的な投資詐欺の手口です。義姉さんの我が儘で領地を欲しがっていて公爵は領地経営には乗り気で無いという話をしてもあんまり良い反応がなかったので、もしマーシェ家がランポール家を次の領地管理に推挙してくれるのならばお金を支払ってもいいという話をしたら食い付いてきましたよ。あの様子だとなにか借金でもあるのかもしれませんね。ただそうなった場合は姉であるエリン夫人にも話さなければと言っていました。彼に共感出来たのは姉を敬愛しているというところだけですね」
「ミセス・エリンは自分達がいかにこの領地に貢献してきかという話を永遠してきたな。領地を返上することが不満なのだろう。リアド氏は歳をとるにつれて気力が弱っていたとか亡くなるときには爵位の件で後悔を口にしていただとか……証明のしようのなことをつらつらと。なので爵位返上の件は陛下も考え直すようにリアド氏に進言していたからアルフレドかヴィオラが爵位を引き継ぐことが出来ればマーシェ家でそのまま管理してもらうか、もしくはソープ子爵の元で管理することも視野に入れていると話をしておいた。大変喜んでいたよ」
「お二人は領地に対する考え方が違うのですね」
片や領地が売れるのならば売ろうとするアルフレドとこのまま継続して管理をしたいエリン。
アルフレドが意見の違うエリンに決定権を委ねているのは何故なのか……。
分からないが、どちらにせよマーシェ家にとっては利でしかないのだろう。