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公爵令嬢はミステリーがお好き  作者: 古城家康
乙女ゲームと遺言書の謎
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書斎での再会⑥

「伯爵が最後にいらした部屋なのでこちらが一番遺言書の手がかりのある確率が高いと思っていたのですけれど……なにも見付かりませんし書斎ではないのかしら?」

「そうなんじゃないの?」

「こちらに無いのでしたら皆様のほうではなにか見付かったかもしれませんわクリスティー様」


 見たかぎり収穫のなかった書斎にクリスティアが残念がっていれば、フランが気を落とさないでと励ます……と同時にガタリという音と共に書斎の扉がゆっくりと開いていく。


 この数日で邸の使用人達を掌握したルーシーが二階には誰も人を寄りつかないようにするため掃除は全て自分が行うと伝えているはずなので使用人達が二階に上がってくることはないはずだ、例え上がってきたとしてもリアドの亡くなったこの部屋を皆、怖がっているので近寄らないはず。


 なのにあの薄く開いていく扉の先には何者かが居るのだ……。


 先程まで話をしていた、自分と同じ姿をしたドッペルゲンガーの姿を想像してフランが怯え。


 リアドのお化けを想像したアリアドネが体を強張らせる。


 そしてクリスティアはこの部屋に来たということはなにか心にやましさを持っている人物かもしれないからそれを追求しようと期待をすれば……。


 ひょっこりとその顔を覗かせてきたのは娯楽室を探していたはずのジョージの顔で、ドキドキと胸を高鳴らせていたクリスティアは残念がり、アリアドネは体の力を抜き安堵し、フランは驚きで非難の声を上げる。


「もう!お兄様!」

「すまない、驚かせてしまったかな?」

「まぁ、ジョージ様。なにかありましたの?」

「逆かな、娯楽室には全くなにも無かったよクリスティー。なのでこちらを手伝いに来たのだけど……まずかったかな?」


 書斎へと体を忍び込ませたジョージが驚かせてしまったことを詫びながら扉をゆっくりと閉める。


 娯楽室にあるカードテーブルやビリヤード台、肘掛け椅子にソファー、小さいながらバーカウンターもあったのでそういったものの裏側や酒瓶の隙間等々、隅々までくまなく見て探してみたジョージだったが……クリスティアが期待するようなものはなにも見つけ出せなかったと肩を竦ませる。


 なにもないと判断した所を何度も探すことほど無意味なことはない。

 人との交渉だってこれ以上実りがないと分かっているのにだらだらと同じ話を続けても心証が悪くなるだけなので落としどころを見付けて切り上げるのが鉄則だ。


 なので娯楽室の探索に早々に見切りを付けたジョージは二階の書斎へと上がって来たわけだったが……。

 二人しか居ないと思っていた部屋にプラス一名、増えている見覚えのないメイド姿のアリアドネを見て遺言書探しをしていることを知られてしまったのかと困惑する。


「まぁ、困りましたわね。書斎にもなにもなくて困っておりましたの」

「そうなんだね……というかそちらのメイドはクリスティーの知り合い?」

「えぇ、ご紹介いたしますわ。わたくしの友人でアリアドネ・フォレストと申します、ルーシーと同様に邸に忍び込ませておりましたの。お二人以外には素性を隠しておりますので他でお話にはならないでくださいね」


 そこに居て問題はないというような態度でなんの説明もしないクリスティアに、ジョージがたまらずアリアドネに対する疑問を投げかければ呆気なく、だが皆に知らせるつもりはなかった友人だと紹介される。

 どうやら邸の使用人に見付かった悪いタイミングというわけではないらしい状況にジョージが一安心する一方、クリスティアがルーシー以外にも人を忍び込ませていたことに関心する。


 見る限り平凡そうな子だ。


 優秀で忠実なるルーシーを最初に自分の侍女だと紹介すればアリアドネのような子をクリスティアが忍び込ませているなんて誰も思いもしないだろう。

 もし仮に他にも誰か忍び込ませているかもしれないと疑う者がいたとしてもクリスティアが忍び込ませるならばルーシー同様に優れた能力を持った者だと考えるはずなので、まさか可も不可もなさそうなこの子を忍び込ませているなんて思いもしないはずだ。


 どうやらこの邸を掌握しきっているクリスティアに、この邸で少しでもなにかやましい行動をすれば彼女の耳に全て入るのだろうと……特にやましいことがあるわけではないのだが他にも居るかもしれない間者に気を付けようとジョージは苦笑う。


「僕ら二人に手の内を明かしても構わないのかな?」

「あら、隠していたわけではありませんわジョージ様。聞かれないことを一々言葉にする必要性はございませんでしょう?それにこうして知られてしまったのは不可抗力ですわ。好奇心旺盛な子を留めておけなかったわたくしの落ち度です」


 アリアドネが書斎を勝手に漁っているだなんてクリスティアは思いもしなかったのだ。

 これがルーシーならば絶対しなかっただろう行動に、ふふっと微笑んだクリスティアになにか背筋に寒いものでも走ったのか一瞬、身を震わせるとアリアドネが焦ったように扉の外を指差す。


「私、使用人部屋とかもっと探してみるわ!あと庭に噴水とか小屋とかあるからそこを探してみるのもいいと思う!」

「では僕が庭に行こう」

「私達は他の部屋へ行きますかクリスティー様?」

「そうですわねフランさん、皆様が泊まられているゲストルームは各々お休み前に探していただくとして……わたくし達は入れそうな他の部屋を探してみましょうか」


 使用人しか入れないところはルーシーとアリアドネが率先して探しているが、この数日の行動範囲内で特に変わったところはなかった。


 書斎と娯楽室でなにも収穫がないことを残念に思いながら仕方なしに他の部屋や庭にまで手を伸ばしたクリスティア達は、必死に手がかりを探してみるのだがめぼしいものはなにもなく。


 時刻が夕方近くになり、ユーリとエルが近くに帰ってきたとクリスティアのネックレスが軽快なメロディーを奏で始めたので名残惜しく探索は一旦終了となった。

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