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公爵令嬢はミステリーがお好き  作者: 古城家康
乙女ゲームと遺言書の謎
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書斎での再会⑤

「この椅子、固定されておりますのね」


 クリスティアが一つだけ違うその椅子の様相に背もたれ部分に触れてみると違和感を感じる。

 なにがおかしいのだろうかと小首をかしげて動かそうとすると全く動かない。

 下を見れば椅子は動かないよう板とビスで足の部分の四方が止められている。


「その椅子で伯爵が死んでたんだって。椅子には幽霊が出るって噂もあるのよ……書斎の片付け担当のメイが見たって怖がってた。その幽霊ってのは伯爵が死ぬ前に見たらしいんだけど書斎の椅子に座る伯爵とその椅子に座る伯爵とは全く同じ顔だったらしくてさ……メイってば驚いて悲鳴上げたらしくて覗き見ていたのかって伯爵に酷く怒られたんだって、伯爵はこの邸の誰よりも大きい人だったから威圧感凄かったって思い出して怯えてたわ。伯爵はドッペルゲンガーを見たからあの世に連れて行かれたんだって皆噂してるわ」

「ドッペルゲンガーですか?」

「そ。そいつはね自分と全く同じ顔をしたもう一人の自分でね、自分が自分のドッペルゲンガーを見ちゃうと殺されるか自分と取って代わられるっていう話があるのよ」

「まぁ、そんな……」

「ですがこの世には自分に似た人物が最低三人は居るという話です。わたしくしではないけれどもとても良く似た人物が他に二人居たとしてそれがドッペルゲンガーだとすれば、その三人が三人で同時に会合したらどうなるのでしょうね?」


 おどろおどろしく両手を前にぶら下げてお化けを演じるアリアドネにフランは怯えるが、クリスティアは聞いているのかいないのか興味深そうに固定された椅子の背や肘掛け部分を触ったりしながら、ドッペルゲンガーが三人居たらお前が私で私が君で君がお前だなんてループを描く状況になって誰が誰を殺して取って代わるつもりなのか本物は誰なのかで大いに揉めそうだとその恐怖心が無くなるおかしな状況を想像させる。

 おかげでフランの感じていた恐怖は消え失せて困惑へと変化する。


「何故、固定されているのかしら?」


 困惑だけを残したドッペルゲンガーの話はどうでもいいらしく、椅子が固定されていることに疑問の声を上げたクリスティアは他の四脚の椅子も固定さえているのかと試しに近くにあった右手側手前の椅子を動かしてみる。


 大きさがあるので重たいもののガタリと音を立て動かせることは出来る椅子。

 どうやら種類の違うこの一脚だけ固定されているらしく。


 ただ真っ直ぐに入り口の扉を見ているだけの椅子を何故固定したのか?


 余程動かしたくない理由があったのか?


 その椅子が向いている方向に意味があるかもしれないと閉じられた扉に淡い期待を持ってクリスティアは近寄る。

 代わり映えしない木材の扉でなにか意味深な模様があるわけでも、どこかに触れたら分かる窪みがありそれに指を引っかけると隠された空間が出てくるとか……そんな感じの手触りもない。

 なんの変哲もない扉を一通り調べて溜息を吐いたクリスティアは書斎机と椅子の間に立つアリアドネへと振り返る。


「アリアドネさん、椅子の下を見て下さる?あなたが探していらした隠し戸などあるかもしれませんわ」

「なんで私が!」

「わたくしとフランさんはドレスを着てますので膝をつくのは……少し憚られるでしょう?」


 そりゃ確かにそうだけれども!


 汚れても良いお仕着せ服だからってなんで私がっとぶつくさ文句を言いながらも膝をついて椅子の座裏、脚部の板という板をくまなく見て触れて探る。


「……特になにもないけど」

「なにか意味深な窪みや彫った文字などございません?」

「ないわよ、つるっつるで傷一つないわ」


 だがそこに期待したものはなにもなく、あるのは埃に汚れたアリアドネのスカートだけ。


 幽霊騒ぎがあったのちに伯爵が亡くなったものだから使用人達は怖がってしまい今、書斎に近寄る者は誰もいない。

 遺品整理もなるべく後回しにしようという意識が働いているせいか掃除にも入らないので立ち上がったアリアドネはその埃を払う。


「固定されていることに特に意味はないのかしら?」


 不思議だと小首を傾げながら後程ヴィオラに固定されている理由をなにか知っているか聞いてみようと取り敢えずはなにもないようなので探ることを諦めてクリスティアは書斎机の後ろへと回ると全体を見るようにゆっくりと部屋を見渡す。


 整頓された書斎だ、装飾品も場違いなシャンデリア以外は華美ではなく魔法道具も古い物で質素さが覗える。


 ふっと窓の外を見れば木々の隙間から小さな町並みが見え、手入れのされた庭と眼下には花の枯れた花壇がある。


 リアドが亡くならなければあの花壇の花の植え替えも行われていただろう。

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