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公爵令嬢はミステリーがお好き  作者: 古城家康
乙女ゲームと遺言書の謎
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書斎での再会①

「ロバート様、ヴィオラ様のためにくれぐれも見落としのないようお願いいたします。どんな些細なことでも奇妙なことがあればわたくしにご報告してくださいね」

「言われなくても分かっている!」

「あの、宜しくお願いいたしますアスノット様」

「あ、あぁ!任せておけ!」


 二階の階段を上りきった先、右手の一番奥にある狩猟室へと向かうロバートにクリスティアが声をかける。

 クリスティアに対していつも反発するような態度をとっているのでその調子でいい加減な捜索をされては困るので一応声を掛けたのだが、場は弁えていると言いたげにぶすっと不機嫌な顔をしたロバートはさっさと背を向け書斎の対面にある狩猟部屋へと歩き出す……が、フランから掛けられた声に足を止めわざわざ振り返り頷く。


 どうやらクリスティアのことが嫌いだとしても品行方正であるべき騎士としての性質から感情とは別で動いてくれるらしい。

 あとフランに頼まれたのだからいい加減な捜索をして駄目な男だと思われたくないのだろう。


「クリスティー様、伯爵は病気でお亡くなりになられたとお思いではないのですか?」


 ロバートと別れ左手側にある書斎へと向かっていたフランが不意に足を止めてクリスティアへと問いかける。

 先程のヴィオラへのリアドの死因についての質問の意図が気がかりなのだろう、俯くフランの暗い表情にクリスティアは困ったように曖昧に微笑む。


「可能性というものは排除しなければならないのでお聞きしたまでです。病気のこともありますし、気が滅入れば悪いことが起きることもあると思ったものですから」

「そんな……悪いことだなんて」


 他に死因があるなんて思いもよらなかったのだろう、クリスティアの言葉にフランがショックを受けたような声をあげる。


 病気というものはどんな剛健な人の心も弱らせてしまう恐ろしいものだということはフランも理解している、それを表に出さないのならば尚更……心の憂鬱は晴れないまま蜘蛛の糸に絡まった小さな羽虫のようにその心を白く覆い本人も知らないうちにゆっくりと衰弱させていく。

 だが、リアドに関してはヴィオラがそういった悪い想像を否定したことでその可能性は排除できたのだろうとフランは少しばかり安堵する。


「本当に別の遺言書はあるのでしょうか?」


 憂鬱そうに呟くように漏らしたフランは、もし別の遺言書があったのだとしてもそれはヴィオラが悲しむような内容ではないようにと願うしかない。


「わたくしにもハッキリとしたことは申せません。ですがジュアル・バート様とベイク・カーツリー様の署名があったとするとそれは遺言書の可能性が高いかと思います」


 二階の廊下で止めていた足を再び動かし始めた二人はリアド・マーシェの書斎前へと向かう。


 この先にヴィオラが望む物があるかもしれないという期待と、この部屋で人が亡くなっているという不気味さに気後れしながら扉を見たフランは進んでいた足を止めると驚きで瞼を見開き、ゆっくり瞬かせる。


「扉が……開いておりますわクリスティー様」

「えぇ、そうですわねフランさん」


 鹿の頭が飾られた書斎の扉が少し開いている。


 誰か使用人が閉め忘れたのだろうか?


 いやでもリアドの死後、その遺体が見付かった書斎の遺品整理などはまだ行われておらず事件当時のままだと聞いていたのだが……。


 この些細だが重大なる隙間に自然とクリスティアとフランの足は先へと進みがたく。

 数分経って意を決して再び動き出した時には自分達の存在に気づかれないようと息を殺し、足音を立てないよう忍び寄る。


 開いている扉の隙間からクリスティアがそっと部屋の中を覗き込めば中央に長机と奥に向かってコの字型に置かれた来賓者用の椅子が見え、一番奥には重厚な書斎机がある。

 中央ではなく、書斎机の前にある椅子の上には派手なシャンデリアがぶら下がっており、それに明かりは点いておらず窓から差し込む光りだけが室内を照らしている。


 中でなにかが動く音と共にゆらゆら揺れる影が見える。


 その窓ガラスから差し込む光で逆光となっていた影の中、辛うじて見えた焦げ茶色の髪と緑の瞳にクリスティアはフッと笑みを漏らしフランに声は立てないようにという合図で人差し指を唇に当てる。

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