遺言書を探して④
「ヴィオラ様、わたくしお話をお伺いしたのちに伯爵の亡くなられた状況を少しばかり調べさせていただきましたの。わたくし警察とは懇意にさせていただいておりますので。伯爵の死因についてヴィオラ様から見て不審な点はございませんでしたでしょうか?」
「いいえまさか!そんなこと!ございませんわクリスティー様!祖父は間違いなく病気で亡くなったのでございます!」
「ですがヴィオラ様は伯爵が亡くなられた折には王都にいらしたのでしょう?」
「それは……そうですけれど!ですが邸で亡くなったということで検死もされたと聞いております!検死に当たられたお医者様も不審な点は無かったと断言いたしております!」
クリスティアの調べでも確かに検死が行われ心臓発作による病死だとハッキリ診断されている。
だが可能性というものは色々と考えておかなければならない。
特にこういった排他的な田舎では真実よりも名誉のほうが重んじられることもあるのだ。
依頼をしてきたヴィオラを怪しむわけではない、依頼者だからこそその目から見て心に湧いた不審感がないのかクリスティアは知りたかったのだが……。
力強く否定するヴィオラは邸の者がなにかを隠しているかもしれないということを疑うことすら嫌がっている様子で……幼い頃に両親を亡くしてこの邸で育ったのならばヴィオラにとっては使用人とて家族と変わらないのだろうとクリスティアはその激しさを納得すると同時に、それはなにかを隠す激情であるともいえるといくばくかの疑問を胸に残す。
「気を悪くなさらないでくださいね。可能性というのは色々とお聞きして排除しなければなりませんから」
「そう……ですわね、申し訳ありません。少し驚いてしまって」
真っ直ぐ見つめるクリスティアの視線から逃げるようにして反らされたヴィオラの視線は明らかに動揺している様子で、なにか心にクリスティアには話せないやましさを抱えているのかもしれない。
けれどもそれがリアドの件と関係あるかは分からないので深く追求することはせず、クリスティアは話を遺言書へと戻す。
「遺言書を探す上で伯爵が亡くなられた部屋に入りたいのですけれども問題はございませんか?」
「……はい、その部屋は是非クリスティー様にお願いいたします」
やや逡巡したヴィオラは先程の質問への追求がなくなったためか、安心したように頷くのでクリスティアはそれに微笑み頷き返す。
「勿論です。では、伯爵の死は予期せぬ死でしたでしょうから新たな遺言書があるとすればそれは行動範囲の中にあると思われます」
「リアド氏の寝室に関しましては遺品整理の際になにか遺言書に関係するものが無いか隅々までお調べいたしましたが、不審なものはなにもございませんでしたので捜索する必要はないと判断して宜しいかと思います」
「そうなのね、ありがとうルーシー。ではジョージ様は娯楽室をロバート様には狩猟室を、わたくしとフランさんは伯爵の亡くなられた書斎をお調べいたしましょう。ヴィオラ様はこのままサロンをルーシーはジュアル・バートからお話をお伺いして」
「畏まりましたクリスティー様」
「では、よろしくお願いいたします皆様」
クリスティアの号令により頷いた一同はそれぞれがそれぞれの場所へと移動する。
その中で一人深く頭を下げていたヴィオラの表情は暗く、色濃く不安を滲ませていた。