遺言書を探して②
「お待たせしてしまって申し訳ございません皆様。まず始めに一点、こちらに居るルーシーですがフランさんからお話をいただいてすぐにこちらのお邸に向かわせましたわたくしの侍女でございます。なのでこの場で何を見聞きしたとしても他言は致しませんのでどうぞご安心ください」
「まぁ、あなたはクリスティー様の侍女だったのですね。とても優秀な方ですから不思議に思っていたのです、あなたのような方は面接にいらっしゃらなくても引く手数多でしょうから」
「恐縮でございますヴィオラ様。黙っていて申し訳ございません。主観でこちらの内情を知る必要がございましたので前もってお仕えさせていただきました」
紅茶をサーブし、部屋の隅で控えていたルーシーがクリスティアの斜め後ろに進み出て頭を下げる。
この数日で邸の使用人達と信頼関係を築き、気難しいエリンを籠絡した鮮やかで見事な手腕は只者ではないと思っていたが……クリスティアの侍女であるならば納得だとヴィオラは頷く。
「では、ルーシー。あなたがこの邸に来てなにを聞きなにを見たのかを皆様にお話ししてくださるかしら?」
「はい、クリスティー様。まず開示された遺言書ですが、こちらはヴィオラ様のご両親がお亡くなりになられた後で一度新しく作り直したものでそれ以降の変更はなく、この度の開示となったものだそうです。開示は顧問弁護士がなさったとの認識で間違えはございませんでしょうかヴィオラ様」
「えぇ、間違いございません。マーシェ家の顧問弁護士であるジョナサン・ファレブが開示いたしました」
「ありがとうございます。ファブレ氏はリアド氏の遺言書を銀行の貸金庫に保管され開示までは手を触れられなかったとの証言がございました。なので事実かどうかの確認をするためにファブレ氏の事務所に商人に成りすましもし自身の遺言書をそちらの弁護士事務所に預けるとしたらどう保管なさるのかと色々と問い合わせをいたしましたところ証言通り遺言書は銀行に保管し、その後は依頼人の許しがない限りは開かないとのことでした。金庫の登録は依頼人及び弁護士本人以外の解除が出来ないよう登録されるそうなのでこの度、開封したリアド氏の遺言書が偽物である可能性は低いかと思います」
「ファブレ氏が誰かと結託して遺言書を変えた可能性はないのか?」
「可能性は低いかと存じますアスノット様。ファブレ氏の評判は品行方正と名高く、リアド氏とは格別親交を厚くなされていたそうですので氏を謀るような真似はなされないでしょう」
銀行の貸金庫は大体において部屋自体がありとあらゆる攻撃を防ぐ魔法鉱石で出来ており、厳重に守られている。
入り口では生体認証と共に映像を記録するはずなので……ファブレが自身が利益の為にリアドの遺言書を不当に扱えば証拠が残るはずだ。
「では新しく遺言書の書き換えを行った記録はないということですか?」
「はい、ジョージ様。万が一も考えましてファブレ氏及び他の弁護士が別の銀行に新しい遺言書を預けたかもしれないということもございますので近隣及び王都の銀行全てにリアド氏名義の利用がないか問い合わせてみましたがそういった記録はございませんでした。とはいえリアド氏が亡くなったことは新聞に大々的に出ておりましたので遺言書を持っている他の弁護士や銀行がございましたら名乗りでないということはないとは思いますが……ただし外国の銀行に預けられていたのだとしたら発見は今暫く掛かる場合もございます」
遺言書が偽物ではないことに安心したのかヴィオラが安堵の溜息を吐く。
家族に疑いの目を向けなければならないことは祖父を亡くしたばかりのヴィオラにとっては酷なことだろう。
ヴィオラの隣に座るフランがその心を慮り心配そうにその手を握る。