遺言書を探して①
翌日の朝食後、外出の支度を終えたユーリとエルは一階へと降りる階段前で待ち構えていたクリスティアに止められる。
明るい黄赤色のドレスはこの邸の誰よりも輝き今日も今日とて美しさが極まっている。
誰もこの格好で家捜しをするとは思わないだろう。
「エル、それに殿下にもこちらをお渡ししておきますわ」
クリスティアから差し出されたのは銀細工の花のブローチ。
ユーリには睡蓮の花の中央に金色の、エルには百合の花の中央に緋色の魔法鉱石が付いたそれをクリスティアがそれぞれの胸に丁寧につける。
突如として贈られた贈り物にそわそわっと居住まいを正すエルと、なにか悪い物なのではないかと不審がるユーリ。
「なんですか義姉さんこれ?」
「こんなときに贈り物か?」
「贈り物といえば贈り物ですけれども……こちら位置追跡機能のあるブローチですわ。お揃いはお嫌でしょうからエルの物には火の魔法鉱石を動力にする物を、殿下の物には雷の魔法鉱石を動力にする物を使用してあなた達が邸に戻ってきたらわたくしのネックレスが感知できるような魔法道具にしております。そちらは戻ったらお返しいただこうかと思っておりましたけれども……わたくしに昼夜構わず居場所を知られても問題ないのでしたら贈り物としてどうぞそのままお持ちください」
気兼ねなく家捜しをするために特別に作って貰った位置追跡機能に特化した魔法道具はクリスティアの首に下げられている橙色で小指ほどの魔法鉱石と連動している。
ユーリとエルのブローチがそのネックレスに近付くと淡く輝き音の鳴る仕組みらしく、試しにとクリスティアが魔法道具を発動すればユーリとエルの目の前でそのネックレスが淡く光り、軽快な音楽が鳴る。
「聞いたことのない曲だな」
「わたくしには懐かしい曲ですわ。送り出して早々こちらが鳴り出さないように出来るだけ長く、お二人を引き留めて遅く帰って来てくださいね」
「畏まりました義姉さん」
「なんだか厄介払いされてるみたいだな」
「まぁ」
遺言書探しを邪魔しそうなマーシェ家の者達の中に自分達まで入れられているようだと不満を漏らすユーリにクリスティアは心外だっと驚きの声を上げる。
「殿下のお陰でわたくしの調査が捗るのです、厄介払いなどとは思っておりません……感謝しておりますわ」
「うむ」
「義姉さん僕は?」
「勿論、エルもですよ。あなたがお父様の代わりを務めてくれてわたくしとても頼もしいわ。けれどアルフレド様は少々ご気性が激しいようだから道中は十分に気を付けるのですよ?」
「はい」
エルの連れがエリンだったらこんなに心配はしなかったのにとエルを心配げに抱き締めたクリスティアに、こんなご褒美が貰えるのならば喜んで危険に身を投じようとエルはスキップして小躍りしそうな気持ちになる。
隣のユーリがそんな二人を見てまさか次は自分の番かもとそわそわっとして居住まいを正すが、クリスティアは微笑みを浮かべて堰き止めていた道を譲る。
そんなことは分かっていたさ……。
家族と婚約者との歴然とした態度の差を見せつけられ鼻で笑うエルを睨むユーリ。
そんなクリスティアが離れればすぐにでも小競り合いを起こしそうな二人を馬車まで見送って、クリスティアはサロンに集まっていたヴィオラ、フラン、ジョージ、ロバートの元へと向かう。