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公爵令嬢はミステリーがお好き  作者: 古城家康
乙女ゲームと遺言書の謎
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マーシェ邸⑤

「失礼いたします」


 凛とした声を上げて来賓者一同に向かって後ろで結んだ赤毛の三つ編みを揺らし頭を下げたのはスクエアカラーの黒いワンピースに白いエプロンを身に纏った使用人。


 ゆったりと勿体ぶるように上げたその顔を見た瞬間、ユーリは驚きの声を上げそうになったのを寸でのところで飲み込む。


(ルーシーを忍び込ませていたのか!)


 クリスティアから片時も離れないこの侍女の姿をそういえば学園で暫く前から見ていなかった。

 ちゃっかりマーシェ邸へと間者を忍び込ませていたらしいクリスティアの裁量に、そういうことは事前に言っておいて欲しかったと自分が口にも顔にも驚きを出さなかったことをユーリは褒め称えたい。


(それにしてもどうやって忍び込ませたんだ?)


 この邸の主であるリアドが亡くなったというのに新しい使用人をわざわざ雇うなんてことは普通しないだろう。

 フランから話を聞いた後では葬儀も終わった後なのでその準備の人手を雇うなんていう雇い広告も出ていなかっただろうし……。

 上手く入り込んでエリンの信頼を得ているらしいルーシーを不思議に思い、ユーリがなにやら賑やかしい窓の外に広がる庭を見ればそこには数人の使用人達が庭園で大小様々な剥製を並べてなにやら騒がしくしている。


「騒々しくて申し訳ございません。最近使用人を幾人か新しく雇いましたの、臨時にですけれども。祖父の葬儀後の遺品整理があるものですから。葬儀の時に新しく雇った者達では足りなくて……ご覧の通り剥製の整理は大変ですの。彼女は新しく来た使用人の中でもとても優秀なんですのよ」

「……そうですか」

「恐縮でございます奥様」


 それはそれは優秀でしょうともなにせクリスティアが手塩に掛けて1から育てた侍女だ。

 紅茶をサーブするルーシーは少しばかりソワソワするユーリに余計なことを喋れば許さないっという眼光鋭い殺気を向けてティーカップをその目の前へと置く。


 毒は入っていないだろうがなにが入っているかは分かったものではない。

 ただでさえルーシーの紅茶は味が濃くて渋く好みでは無い紅茶なのだ。


 喉は渇いていたものの差し出された琥珀色の液体に手は伸ばせずに、ユーリはただ見つめ続ける。


「義姉の不躾な態度をお許しください、王都でなに不自由なく育ったものですから悪気はないのです。気質的に気紛れといいますか……本日も物見遊山気分で同行しておりますのでご容赦ください」

「えぇ、理解しておりますわ」

「では早速で申し訳ないのですがこの度、リアド・マーシェ伯爵が亡くなられたことより兼ねてより国王陛下へ伯爵本人が進言しておりました爵位の返上とそれに伴う領地管理者の変更があるとお伺いいたしました。義父であるアーサー・ランポールはこの地にとても興味を持っております。どういった土地柄なのかを視察し、我がランポール家が治めるの値する領地なのかを精査し報告する命を私に託されましたので、元々納めていたマーシェ家の方々から領地に関する嘘偽りのない意見をお伺いできれば幸いだと思っております」


 この中で一番年若いエルだがそれを感じさせない尊大さで足を組み、手を組んで値踏みするような視線をエリンへと向ける。

 例え血の繋がりはないとしても自分は公爵家の人間なのだとその態度が物語っている。


 まさか領地の管理者に公爵家が候補者として名乗りを上げるとは思ってもいなかったのだろう。

 順当にいくならば爵位及び領地を継ぐはずだったアルフレドが遙か年下の少年から慇懃だが驕った態度を取られて眦の下をピクピクと痙攣させている。

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