ヴィオラ・マーシェの話⑨
「では、まずはマーシェ邸へお邪魔する理由を考えましょう。他のご家族からすれば新しい遺言書を探すということはあまり良い顔をされないことでしょうから。新しい遺言書があるかもしれないことは他のご家族はご存じなのかしら?今、お邸の管理はどなたがなされていますのでしょう?」
「いたずらに不安を持たせてはいけないと思い不審な手紙が届いた件も含め話はしておりませんクリスティー様、皆様にだけでございます。邸の管理に関しては正式に遺言書が行使されるまで子爵家に嫁がれました叔母であるエリン・ソープが行っております。相続は叔父であるアルフレド・マーシェがするだろうと弁護士先生の方がおっしゃっておりましたわ」
「そうなのですね、分かりました。では遺言書の件はこのまま秘密になされていてください」
「畏まりました。ただ邸の相続に関しては今居る使用人を解雇しないこと、将来に渡り賃金を保証することなど条件がいくつかあるようなので……叔父がそういった条件を呑んで邸を相続するかは分からないところではあります」
「叔父様は確か、王都にお住まいだとフランさんからお聞きいたしましたのですけれど……」
「はい。今は祖父の相続等の問題もございますので領地におりますが、普段は王都にありますマーシェ家のタウンハウスで過ごしております」
「爵位を継ぐつもりならば邸も相続するのが順当だと思うんですが……その叔父上が邸を継ぐつもりがないのならば同時に爵位もお継ぎにならないのですか?」
「はいジョージ坊ちゃま。祖父は亡くなる半年ほど前に自分が亡くなったら爵位は誰にも継がせずに返上するという書簡を国王陛下へ宛てたと聞いております。ですので祖父の遺言が執行されればマーシェ家の領地は全て国家に返還されると思います。とはいえ祖父の葬儀などでそういったことはまだ何一つ決まっておりません……領地の管理は今だマーシェ家が行っております。近いうち王都から監査人を派遣するはずですわ」
「爵位の返上となればご家族は大変反対されたのではないですか?ご結婚をされている叔母様はあまり関係がないでしょうが、叔父様は貴族としての地位がなくなるわけですし領地から得られる収入が減るということにもなるのであまりいい顔はされないでしょう。失礼ですがお二人に金銭的な問題は無かったのですか?」
「いいえ、エル様。叔母が嫁がれました子爵家は領地で交易を行っておりますので裕福とまではまいりませんがお金に困るようなことはございません。叔父も同様に爵位を継いではおりませんから王都で比較的自由に商売をなされておりますので困窮しているという話は聞いたことがございません。王都に住まう間の邸の維持費は叔父自身が支払っていると聞いております。詳しくは私も分かりかねますが叔母も叔父も金銭的に困っているということはないと思います。爵位に関しては確かに、お継ぎになるはずだった叔父は返上に大変反対をされました……度々それで祖父と衝突をしておりましたが、爵位の授与は祖父の功があってこそでしたのでご納得するしかなかったのだと思います。ですが祖父の死は突然でしたので……もしかすると今後返上を不服として国王陛下へと申し立てるかもしれません」
ヴィオラの話を聞きながらふむっと悩むように顎に手を当てて膝を見つめていたクリスティアはなにやら思いついたらしく、顔を上げてニッコリ微笑む。