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公爵令嬢はミステリーがお好き  作者: 古城家康
乙女ゲームと遺言書の謎
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ヴィオラ・マーシェの話⑧

「それでも祖父との関係は良好でしたから、親しい交友関係は私もよく存じております。筆まめでしたので手紙のやり取りもよくしておりましたので……もしかしたら今回の手紙はその中の何方かが祖父から頼まれたものなのではないのかと手紙の筆跡を色々な手紙と比べてみたのですがどの方とも当てはまるものはなく……やはりあの手紙は悪戯ではないのかとの疑念がありながらも、このようなことをしたとしてその方に一体どのような利となるのかが分からないのです」

「気になるんですねヴィオラ先生?」

「はい、ジョージ坊ちゃま。遺産は良いのです、もし私に相続するという遺言書が残っていたとしても私には亡くなった父と母が残してくれた相応の遺産がありますから祖父のものは放棄して叔母と叔父が祖父の心に則って正当に引き継いでいただければ良いと思っております。ただ相続の話を無しにしてもし祖父の手紙があるのなら……なにか私に残したかった言葉があるのならば、私は残されているであろう祖父のその最後の気持ちを知りたいのです」


 祖父のことを思い出したのか少し涙ぐみ失礼しますっとハンカチを取り出して眦を拭うヴィオラ。


 遺言書という証明が欲しいのではない、ただ残されたリアドの心が知りたいのだと力強く訴えるその真摯な眼差しは、まるで別の遺言書とは関係なく、リアドにはなにか……他のなにかが残されていると知っているかのような口振りだとクリスティアは不思議に思う。


「祖父は偏屈で頑固な人でしたけれども心根はとてもお優しい人でした。領地の者達や使用人達からも愛されており、両親が亡くなって寂しくしている私の気を紛らわせるために宝探しを考えてくださったりして……宝箱の中にはお嫌いなくせにいつも私が欲しがる本などを入れてくださったりしたのです。本当に本当に愛情を傾けてくださいました。私が教師となるときは大変反対し私は反発いたしましたが、それでも教師という職に就いた後も暖かく邸へと迎え入れてくれたのです。なのでこの名も無い友人だという方の手紙の内容が本当のことなのだとしたら例えそこになにが書かれていようとも私はその内容が知りたいのです。クリスティー様不躾なお願いでございますがどうか、どうか我がマーシェ邸へと赴いて祖父の心がどこにあるのか探し出してくださらないでしょうか?」


 例えそこに自分に対する恨み言が書かれていたとしても全てを受け入れる覚悟があるとヴィオラは真っ直ぐにクリスティアを見つめる。


「ヴィオラ様」

「はい」

「わたくしがお力をお貸しするということはもしかするとなにもない真実を知ることになるかもしれないということにもなりますが、それでも宜しいですか?」

「なにもない真実……ですか?」

「えぇ、別の遺言書があるのならばわたくしはどんな場所に隠されていようとも見付けだす自信がございます。けれども元々ないもの、名の無い手紙は愉快犯の仕業であり、実際にはリアド伯爵が残された遺言書などはないという可能性もあるということです」


 ヴィオラの手を握り本当に良いのかとクリスティアは問う。


 新しい遺言書が本当にあるのならばそこに恨み辛みが書かれていたとしても亡き祖父の心を知りその思いを忍び墓石へ後悔と哀悼を捧げることも出来るだろう。

 だがそのようなものは無く、何処かで隠れてこの状況を見て楽しんでいるのかもしれない愉快犯の仕業だとすれば遺言書探しはその者の掌で踊ることとなり、期待を持ったぶん落胆は大きいものとなる。


 そしてその様子を面白可笑しく笑うであろう犯人に恨みだけを募らせていく。


 手がかりが手紙だけでは愉快犯を見つけ出すことはまず困難であり、実害がない手紙に問われる罪はその犯人を見つけ出せたとしても思っているよりも遙かに軽い刑だろう。

 やるせない気持ちを抱えることになるかもしれないけれども本当にそれで構わないのかとクリスティアは、あるかもしれないという夢を見ているほうが幸せなこともあると改めて問う。


「ないのならないで諦めが付くのです。私が見ていた祖父が全てにおいて真実であり、どんな形であれ私を愛してくれていたのだとそう信じることが出来ます。ですがこのままなにも分からずに夜、目を閉じたときに本当の祖父の気持ちがあるのではないかとふっとした不安を抱くことが嫌なのです。愉快犯に笑われることより私にはそのことのほうが余程恐ろしいのです。それに祖父は例え遺言書ではないとしてもなにかを残していると……私はそう思うのです」


 何処かに本物の遺言書ありそこに祖父の本当の心が書かれた手紙があるのかもしれないと眠れなくなることのほうが、遺言書がないことよりヴィオラの心をざわめかせる。

 どんな結末になろうとも真実のほうに価値があるのだと力強く見据えるヴィオラの眼差しにクリスティアも強く頷く。


「畏まりましたヴィオラ様。微力ですがわたくしマーシェ邸へと赴き、遺言書探しのお手伝いさせていただきますわ」

「私もヴィオラ先生のお力になります!」

「ありがとうございますクリスティー様!フランお嬢様!」


 強く強くクリスティアの瞳を見つめたヴィオラは希望を得たようにキラキラとその瞳を輝かせる。

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