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公爵令嬢はミステリーがお好き  作者: 古城家康
乙女ゲームと遺言書の謎
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ヴィオラ・マーシェの話⑥

「……失礼いたします、フランお嬢様とヴィオラ様が参りました」


 扉が開いて入ってきたレイが一瞬、この世の終わりかのように暗くなっているロバートの様子に少しばかりギョッとした驚いた顔をするが、悪戯っ子のような笑みを浮かべているジョージの様子を見て彼に虐められたのだろうと察し見て見ぬ振りをして案内をしてきた二名の女性を通す。


「皆様、お待たせを致しました」

「失礼いたします」


 レイの右隣に立つのはフリルの付いたスタンド・カラーの白いシャツに紺色のフレアスカート姿のフランと、更にその隣で白いレースの付いたスタンドカラーの黒いドレスを身に纏い、落ち着いた灰色の髪の毛を頭の後ろで纏めて紫の色の意志の強い瞳で一同を見つめる女性が立っている。


 ヴィオラ・マーシェは齢三十二歳の女性だとフランからは聞いていたが、隣に立つ女性はそれよりも若く、二十代半ばほどに見える。


「ご紹介いたします。彼女がヴィオラ・マーシェ様です。ヴィオラ先生、お母様のお隣にお座りなのがクリスティア・ランポール様で向かい側にお座りなのがエル・ランポール様、そのお隣にお座りなのがロバート・アスノット様ですわ」

「皆様初めまして。ヴィオラ・マーシェと申します。お越し下さいました皆様にはお話をお聞きくださることに、フランお嬢様には私的な問題を大変ご心配くださり深く感謝を申し上げますとともに旦那様と奥様おかれましてはお屋敷の一室をお貸しいただくご迷惑をお詫びさせていただきます」

「いいんだよヴィオラ、君には娘がお世話になっているのだから部屋の一つや二つ気にしないでくれ」

「お心遣い感謝いたします旦那様」


 一同に向かって深く深く頭を下げたヴィオラの落ち着き払った様子を見てクリスティアがソファーから立ち上がると静かに近寄りその手を優しく握る。

 気丈に振る舞ってはいるものの愛する祖父が亡くなったばかりだ、それに心を乱す差出人不明の手紙のこともありその顔色はあまり良いものではない。 


「お顔をお上げ下さいマーシェ様。わたくしの敬愛する探偵も申しておりますわ、抱える問題を解決するにはどんな場合もその専門家に任せるべきだと。わたくし微力ながらあなたのお手伝いができれば幸いですわ」

「……ありがとうございますレディ・ランポール」


 クリスティアが自分で言うところの探偵という専門家に公爵令嬢が当てはまるとは到底思えないのが普通の感覚なのだが、彼女がロレンス家を含む数々の事件を解決してきたことはヴィオラはフランから聞いているし巷の子供でも知っていることなので、特にその専門家に対する違和感もなく……。

 心強そうに安心したように微笑んだヴィオラは緊張していた肩の力を抜くとクリスティアに握られた手を握り返し良くなかった顔色に少しばかり血色を戻す。


「では私達は退出しようかカーラ」

「えぇあなた、失礼いたします皆様。どうぞごゆっくりなさってください。ヴィオラのことをどうぞよろしくお願いいたしますわね」

「僕は興味あるのでご一緒してもよろしいですかヴィオラ先生?」

「構いませんわジョージ坊ちゃま」

「あ、あのフラン……」

「は、はいアスノット様。あっ、今日はご足労頂きましてありがとうございます」

「い……いや、それは別にいいんだ。その、あの……いや、俺は入り口に居るから。なにかあれば呼んでくれ」


 ジョンとカーラが退出したのに続くようにして外へと出ようとするロバートだったが、ジョージに言われたことが気がかりだったのかフランが本当に自分のことをどうしようもないほどに嫌っているのではないかと不安になり、フランの気持ちを聞かなければと意を決してその前へと立つがその切羽詰まったような威圧感に震えられ、視線を逸らすように頭を下げられる。


 お礼を強要したかったわけではない。


 ただ怯え嫌わないでくれと伝えたかっただけなのに……。


 これで本当にフランに嫌いだと言われたら立ち直れる気がしないので、結局なにも聞くことが出来ずに本来この邸に来た目的を果たすため後ろ髪を引かれるような思いでロバートもすごすごと退出する。

 ロバートには予めクリスティアから入り口で盗み聞きするような人物がいないよう見張るように仰せつかっているのだ。

 とはいえ伯爵家にそう簡単に間者が紛れ込めるとはクリスティアも思ってはいない、使用人の身元はしっかりと調べた上でレイが雇うだろうし新しい使用人が入っていないことは先程確認済みなので今、雇われている使用人達の中で例えばお金欲しさにローウェン家を裏切るような使用人がいないことはクリスティアも承知している。

 なのでロバートを護衛に立てたのはフランのこととなると心配が暴走して余計なことをしでかしそうなロバートを制御するために仲間に入れた方が扱い安いだろうというクリスティアの計略だ。


 無意味な門番だが邪魔にはならないという点では無駄ではない。

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