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公爵令嬢はミステリーがお好き  作者: 古城家康
乙女ゲームと遺言書の謎
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ヴィオラ・マーシェの話③

「失礼いたします、クリスティー様とエル様がご到着なされました」

「あぁ、入ってくれ」


 ノックをすれば中から落ち着いた低い声が響くのでレイが扉を開きクリスティアとエルを中へと案内する。

 そしてクリスティアのショールとエルのコートを受け取って入り口左手側にあるポールハンガーに掛けると頭を下げてレイはそのまま部屋を辞する。


 客間は落ち着いたカントリー調の家具で揃えられている。

 正面窓から燦々と差し込む陽の光で照らされた室内の中央には彫り物のされた光沢のある楕円形の机と花柄の三人がけのソファーが机を挟んで対面に二脚と一人がけのソファーが入り口のほうに向いて一脚置いてある。

 その一人がけの椅子には明るい茶色のズボンに青いベスト、白いシャツの首元に淡い黄色のループタイを巻いて橙色の混じったような赤毛の髪を後ろで一つに結び橙色の快活な瞳を入り口の訪問者に向けて座っているのはフランの父であるジョン・ローウェン伯爵。

 そしてその右隣、三人がけのソファーに座っているのはレースの襟とバーサのついたビショップ・スリーブ、腰に橙色のベルトを巻いた薄青色のドレスを纏い緩いウエーブの掛かった薄い黄色の髪の毛を胸まで伸ばして茶色の穏和な瞳を細めた母親であるカーラ・ローウェンの姿。

 ロバートは既に到着していたらしく、階級で色が変わるエポーレット(ロバートは一番下の階級なので無地である白)の付いたオフィサーカラーの紺色ジャケットに黒のズボンという中央騎士団の制服に身を包んで左側のソファーへと座っている。


 休日にフランに会えるという浮かれ気分から自分が一番格好いいと思っている服を選び勇んで来たのだろうが折角の休みに騎士の制服で来るとは……帯刀していないだけマシだが荒っぽいことが好きではない騎士を苦手とするフランに会うということを考えれば、どう考えてもその服装は失敗だろう。


「出迎えが出来ずにすいません、クリスティー殿、エル殿」

「いいえ、ローウェン卿」


 立ち上がって握手の手を伸ばしたジョンの手をエルが握り返す。


 190センチはあるであろう大柄な男の握手はクリスティアの華奢な手を悪気無く握るではなく潰すだろう。

 職人らしく無骨なマメだらけの掌の圧力を感じながら痺れそうな手を離してもらいエルは引き攣り笑いをする。

 そしてジョンに勧められカーラの隣にクリスティアが、ロバートの隣にエルが座る。


「レイととても楽しくお話をさせていただきましたのでお気になさらないでください。それに急なお手紙でしたのにお早い返事をいただき感謝しておりますわローウェン卿」

「クリスティー殿にはフランが大変お世話になっておるのですから当然です、あなたからの手紙の返事は最優先事項ですよ。それにお礼を言うのはこちらのほうです。うちの家庭教師の件でご足労いただいたのですから。フランは彼女を姉のように慕っておって、此度の件は大変心配だったのでしょう。あの子の我が儘をお聞き下さりありがとうございます」

「フランは体が弱い子ですから学園でクリスティー様が側に居て下さるだけでも心強いことだと常々感謝しております。ヴィオラのことは私達もとても心配しておりましたのでお話をお聞きくださるだけでも彼女にとっては心強いこととなるでしょう。こうして心配してくださったアスノット様にもお礼を申し上げておりましたのよ」

「勿体ないお言葉です!」


 ローウェン夫妻の優しい言葉に、婚約のお願いに来て以降は訪れていなかったのでロバートはソワソワと落ちつきなくしている。


「フランさんはわたくしの大切なご友人のお一人です。そんな彼女が心を砕いているのです、わたくしの微力なお力で何処までお助けすることが出来るか分かりませんが少しでもお役に立てるのでしたらお二人のお気持ちが軽くなるまでお話をお伺いできればと思っておりますわ」


 優しくカーラの掌を握ったクリスティアは、とはいえヴィオラの話を聞くだけで終わらせる気はないのだろう。

 手紙にあった遺言書の内容に大変興味を持っているらしく、叔父であるヘイリーに会いに行くまでしたのだから持てる力を良くも悪くも思う存分に発揮するつもりのクリスティアの真意を察しているエルが苦笑えば、コンコンっと扉を叩く音が響き返事を待たずに一人の青年が中へと入ってくる。

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