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公爵令嬢はミステリーがお好き  作者: 古城家康
乙女ゲームと遺言書の謎
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そして始まってしまった物語⑫

「わ、分かったわ!でも私に協力してくれるってことはなにか事件とか起こさないといけないかもしれないわよ?ゲームでは殿下と親密度上げるにはそういった事件が必要だったわけだし……でもシナリオに沿うのは絶対嫌だから、軽い、軽い教科書隠したりとかミニイベント的なやつをしてもらうことになるかもしれないけど……本当にいいの?」

「えぇ、承知しておりますわ……お二人で困難を乗り越えればより親密さも深くなるというものです。ルーシー」


 事件を起こすことはクリスティアの本来の信条ではないもののアリアドネを籠絡させるためには仕方ない。


 クリスティア・ランポールに掛かれば稚拙なものから趣向を凝らしたものまで、お望み通りの事件を起こしてみせましょう。


 そう悪役令嬢らしい笑みを浮かべたクリスティアに、何処に行っていたのか名を呼ばれたルーシーはシュッと風のように現れて一枚の紙を幾ばくかの不安を表情に滲ませているアリアドネへと差し出す。


「口約束にするよりかは契約書をお作りしたほうが宜しいかと思いましたのでルーシーに作らせましたわ。こちらをお読みになられてご納得いただけましたらサインをお願いいたします」


 どのタイミングで契約書を作ると決めていたのかは知らないが主人の意向を汲み取ったルーシーによって用意周到に準備された契約書を渡されたアリアドネはまじまじとその内容を見つめる。

 前世の頃から説明書とかを見るタイプでは無かったので紙に細かい文字が書かれているというだけでゲンナリするが、自分の命がかかっていれば真面目に見るというもので。


 目を見開いて見るそこには、クリスティア・ランポールはアリアドネ・フォレストが死なないための事件を思慮し、無事卒業式を終えられる策を方法は問わず弄すること。そしてアリアドネ・フォレストはその見返りとして弄したぶんクリスティア・ランポールが望むときに望むようにその手を貸すこと。双方契約を違えた場合はそれ相応の罰をお互いに科すことと。


 長ったらしくなく簡潔かつ簡素に書かれた契約書にアリアドネは安心はするが、長い文でないだけ逆に不安になる。


「この手を貸すってなに?あなたが私に起こす事件には手を貸せないでしょ?」

「あら、そんなことはございませんわ。事件を起こす日の何時頃にどこそこに殿下と共に行って欲しいとあなたにお伝えをして向かってもらうこともわたくしに手を貸すということになるでしょう?それにあなたはわたくしの考える事件の内容を知らなければそこに殿下を呼び寄せたとしても謎が解けず上手く親密度を上げることは出来ないでしょうから、上手くことを運ぶためにはわたくしとあなたでの準備も必要となるでしょう」

「た、確かに」


 クリスティアはアリアドネの糸でどのような事件が起きるのかは知らないし、自分で考えて事件を起こすのならばアリアドネも知らない事件となるだろう。

 その事件を解決する力量がアリアドネにあればいいのだが、今の段階でクリスティアが転生者であることを証拠もなしに直接問いに来たことを見るにその力量は期待できない。


 アリアドネの糸で起きる事件を予めアリアドネに教えてもらい同じ事件を起こすのも手かもしれないが、それはいつか同じ事件が起きたときにクリスティアが解く謎として楽しみに取っておきたいのだ。


 これで全てが上手くいくならばっとユーリのイケている顔面を間近で見た後のあまり正常に働かない意識の中で、走馬燈のようにイベントスチールを思い出し下手な笑いを堪えるように噛み締め笑うアリアドネは契約内容に納得して躊躇わずにその下へと名前を記入する。

 そしてそれを確認してクリスティアも隣へと名前を記入する。


「これで良いでしょ!よろしくね!」

「こちらこそよろしくお願いいたします。わたくしのことはどうぞクリスティーとお呼び下さい」

「なら私のことはアリアドネでいいわよ、ちなみに日本名は小林こばやし文代ふみよ

「まぁ、素敵ですわ。探偵の助手にぴったりなお名前ですのね。わたくしは愛傘あいがさ美咲みさきと申しましたわ」


 アリアドネが今日の今日まで誰にも知らせることのなかった前世の名前を口にしたのは乙女ゲームの世界へ転生したという秘密を共有できることへの嬉しさだったのかもしれない。

 名乗られたのなら名乗るのが礼儀だと己の過去の名前を同じように名乗ったクリスティアから差し出される手、その手を見ながらアリアドネはあれっと胸になにか靄のような気持ちが湧き上がる。


(愛傘美咲って何処かで聞いたことある名前な気が……)


 何処で聞いた名前だったっけっと考えるがラビュリントスで和名を聞くことなんて滅多にない。

 久し振りに聞いた自分以外の和名に既視感でも感じているのかもしれないとクリスティアの手を握り返したアリアドネは決まった契約に満足し、すっかり冷めてしまっている紅茶を一気に飲み干す。


「しょっぱ!!!!」


 砂糖と塩間違えてるじゃん!


 そう叫んだアリアドネにまぁ、うっかりしておりましたっと誰が見ても故意に間違えたと分かる無感情な態度と声音で謝罪をするルーシー。


 きっとこの先、アリアドネはこの時のクリスティアの様子に気付かなかったことをとてもとても後悔することとなるだろう。


 ルーシーとアリアドネのじゃれ合いの最中にクリスティアがそれはそれは満面で邪悪な笑みを浮かべて契約書を見ていたことを。


 そしてこれがアリアドネにとって悪魔との契約の始まりであるということを……。

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