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公爵令嬢はミステリーがお好き  作者: 古城家康
乙女ゲームと遺言書の謎
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そして始まってしまった物語⑩

「……クリスティア」

「まぁ殿下、ハリーも」


 タイミングが良いのか悪いのか、現れた待ち人にクリスティアは立ち上がる。


 もう少しアリアドネと話していたかったのだけれども困ったことだ。

 どうやってこの二人を追い払うべきか考えるクリスティアに、幼い頃から共にいたので先程の算段するような笑みをよく見てきたせいかその内に考える悪い企みを敏感に感じ取ったらしいハリーは訝しむ。


「なにか悪い話でもしてたの?」

「誤解ですわハリー。彼女はアリアドネ・フォレスト様とおっしゃるのですけれど殿下をお待ちする間、暇を持て余しておりましたのでご一緒していただいておりましたのよ。悪い話だなんて……楽しくお話をさせていただいていただけですわ。ね?」

「えっ!?あっ、はい!あの殿下!ご機嫌麗しくあの!その!」


 慌てて椅子から立ち上がり茹でタコみたいに顔を真っ赤にして頭を下げたアリアドネ。


 ワントーン高くなった声と緊張からスカートを握りしめて熱っぽい深い緑の瞳をちらちらとユーリに向けるその表情は誰がどう見ても恋する乙女の表情で……アリアドネのそんな様子を見たその瞬間、クリスティアが慈悲深い笑みではない。

 そうまさに極悪な、素晴らしく極上の獲物を見付けたときの肉食動物のような耳まで裂けた唇から牙を覗かせる凶悪な笑みを浮かべる。


 まさにアリアドネのいうゲームの悪役令嬢のようなその笑みを真っ正面から見ることになったユーリとハリーは体を強張らせる。


「ク、クリスティー?」


 ハリーが震える声で名を呼べば、耳まで裂けていた口角の笑みがスッと下がり穏やかな公爵令嬢らしい微笑みを携える。

 あの凶悪な笑みを見ていなかったのだろう。

 アリアドネは二人の緊張したような面持ちを不思議そうに、今はお淑やかなクリスティアの笑む顔とユーリとハリーの緊張した面持ちとを交互に見つめる。


「どうかなさいましてハリー?」

「いや、今……」

「それよりお二人はどうなされたのです?殿下のご用事はもう終わりまして?」

「あ、あぁ……いや、それがまだ少し掛かりそうで……待っていてもらったのに申し訳ないが先に帰ってもらおうかと思っていたのだが」

「まぁ、そうなのですね。ですがわたくしまだ彼女とお話がございますので殿下のご用事が終わるまでお待ちしておりますわ。ね、構わないでしょう?」

「えっ?あっ、うん、はい」


 ユーリを見たまま上の空のアリアドネの肩に優しく触れたクリスティアに、ユーリーとハリーの間で妙な緊張感が走る。


 なんだこの異様な緊迫感は、この場にあの幼気な少女を置いて行くことは酷く、酷く良心が咎める。


 今にもバクリと一口で少女を飲み込みそうなクリスティアの気配に、身に迫りそうな危機をなにも知らないし感じてもいないらしい無垢な少女をユーリは戸惑い見つめるがその少女は恥ずかしそうに頬を染めて見つめ合った目を逸らす。


 見たことのない少女だが制服を着ているので学園の生徒で間違いはないのだろう。

 一体この少女のなにがクリスティアの琴線に触れてしまったのか……。


 このまま置いていけばなにか悪いことでも起きそうな気がする状況に本当にただ話していただけなのか、ユーリは少女を助けだすべきなのか分からずにクリスティアへと探るような声を掛ける。


「クリスティア」

「はい殿下」

「あの……」

「えぇ」

「その……」

「どうなされたのです?」

「ユーリ、止めておこう……大丈夫、クリスティーだって分別はあるはずだ」

「そう……だろうか?いや、そうだな……なんでもないクリスティア……」


 なにを考えているのか分からないがあの凶悪な笑みをクリスティアが浮かべるときそれを邪魔すれば相応の報復が待っていると幼い頃から何度か見て体験しているユーリとハリーは崩れることのないクリスティアの公爵令嬢としての笑みに怯える。


 きっと考えすぎだ、クリスティアだって成長したのだ。


 子供の頃のように純粋な凶悪さは理性で押さえるはず。


 だからあの少女は悪いようにはならない……と信じたい。


 余計なことを言えば自分に向かって牙を向けてくるであろうクリスティアのことを止める勇気はなく、アリアドネを憐れみの目で見つめたユーリは守るべき民を助けられないへたれを許してくれっと心の中で懺悔しハリーと共にそそくさと図書室を去って行く。

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