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公爵令嬢はミステリーがお好き  作者: 古城家康
乙女ゲームと遺言書の謎
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そして始まってしまった物語②

「見付けたわ!クリスティア・ランポール!」


 しかしその音の主は注意を受ける前に、思った通りクリスティアの元へと来るとその名を挑むような大声で叫ぶ。


 セミロングの焦げ茶色の髪に丸く大きな吸い込まれそうなほど深い緑の瞳、白い肌を薄桃色に染めた可愛らしい顔立ちの少女は両手を腰に当ててふんぞり返りクリスティアを見据える。

 それにクリスティアが反応するより早くルーシーが少女からの視界を遮るように二人の間に立つと耳元で囁く。


『中等部に進級した折よりクリスティー様のいらっしゃるこちらの窓を度々庭園から覗いていた者です。全て調べておりますので身元は問題ないですしこれといったトラブルも抱えておりませんが……処理いたしますか?』


 寒風吹きすさむ庭園に居たせいかよく見れば鼻がしらが真っ赤に染まっている。


 そんな子が居たかしら?っと全く覚えのない視線を進学時より注がれていたらしい事実に、ルーシーが言うのならば身元調査に間違いはないだろうし、問題がないのならば関わり合う必要もないだろうとクリスティアは判断する。

 なにか問題でも抱えていたのならば話くらいは聞いてあげたのにっと残念に思いながら少女へと視線を向けもせず軽く頷いたクリスティアに、ルーシーが恭しく頭を下げるとその少女の前へと歩み出る。


「図書室ではお静かにお願いいたしますアリアドネ・フォレスト様。申し訳ございませんがクリスティー様は只今大変お忙しくされておりますのでお引き取りをお願いいたします」

「いや、どう見ても暇じゃん!本読んでるだけじゃん!?てかなんで私の名前知ってんのよ!?ちょっ、ちょっと!?怖っ!顔怖いって!ち、近寄らないでって!」


 一階の階段のある方向へと追い払うように、にじり寄るルーシーの獲物の首を噛み切る猟犬のような修羅のオーラに気圧され後退るアリアドネ・フォレストと呼ばれた少女。


 中等部に進級して暫くしてからクリスティアの向かう場所を庭園や廊下から覗き見ていたこのストーカー少女のことをルーシーが気付いていながら放置していたのは既に身元身分家族構成、現時点での品行方正などを調べ上げていたからだ。


 過去から現在に到るまでの間にクリスティアとの接点があるわけでもなく、本人や親類縁者からランポール家が恨まれるような事件や事故もない。


 もし一つでもクリスティアの害になるような要素があればルーシーは全力で彼女を排除していただろう。

 だが調べた上で放置しても問題ないと判断したから放っておいたというの……まさか不遜にも直接クリスティアに話し掛けてくるとは。


 覗き見を始めてからなにかしらの行動を起こすわけではなかったこの少女はてっきりクリスティアへの憧れからその姿を覗き見ているだけかとルーシーは思っていた。

 クリスティアを崇敬しているルーシーも、もし彼女の侍女ではなく同じ学園に通う一生徒だったとしたら話し掛けるのはおこがましいと躊躇いつつもその尊き姿を見るだけ見ていたいと隠れて付きまとい覗き見ていただろうからその気持ちは理解出来た。

 ルーシーの目からみれば可愛らしくていじらしい少女の初恋のような様子を同志のような気持ちと寛大な心で大目に見ていたというのにその気持ちを踏みにじるとは……。


 現在のアリアドネ・フォレストの視線や態度から見てクリスティアを敬っているようには見えない様子に……勝手に解釈していたとはいえ紛らわしい態度にすっかり騙されたとルーシーは怒りを燃え立たせる。


 大体、公爵令嬢に対して平民がなんたる無礼な態度。


 身に纏う身分を捨ててから学園の門を潜るべしという校訓があるにしてもある程度の弁えと礼儀があって然るべきだ。

 クリスティアは気にしないだろうし面白がるだろうけれども、学園の生徒ではないクリスティアの侍女の身であるルーシーとしては主人への礼儀のない態度は到底許せることではなく、全力での排除へと向かって動く。

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