そして彼女は死んでしまいました
(あぁ……敬愛なるクリスティー先生)
黒い獣が一匹、雲の隙間から窓ガラスに差し込む月明かりに照らされている。
天蓋付きのベッドの中で管に繋がれている薄桃色のネグリジェ姿の少女を見下ろし荒い息を漏らし、剥きだしの歯を噛み締め、メスの抵抗を奪い強者の自分が組み敷くことこそが誉れだというように押さえきれない本能という欲望で交尾をするかの如くギシリギシリとリズムを刻むようにベッドを沈ませている。
「……っ!っっ!」
首に絡みつく指によって一層に深く沈んだマッドレスに少女が声にならない悲鳴を上げる。
(高名なるドイル先生)
管が腕、足、体に絡まり元々動きの弱い少女の体は碌な抵抗も出来ず。
盛り上がる白波のように首の皮膚を盛り上げ打っていた脈拍が短くなっていく様に獣は隠しきれない興奮で鼻腔を広げる。
「……が!……ればっ!お……がっ!」
血走った目と降り注ぐ言葉の羅列を互いの耳に入れながら、獣を真っ直ぐ濁っていく瞳で見据えた少女は遙か遠くへと飛びそうな意識の中で客観的に見下ろした瑣事にニヤリと口角を上げる。
(どうして私はこの無作法で無遠慮で愚かなる科学技術の発達した世界に生まれてしまったのでしょう)
細やかにして弱々しく抵抗していた少女の爪が獣の皮膚をガリッと辛うじて引っ掻きそして……そして落ちていく。
管に絡まれた少女は波打ち際に打ち上げられた魚のようにビクンビクンと体を二度ほど痙攣させると力をなくした手をシーツへの海へと沈み込ませて暗い暗い海峡の奥底へと意識を静かに落としていった。