第四話 党大会
2020年1月2日、札幌市内では毎年恒例の、日本人民労働党の党大会が行われていた。札幌は極東革命期に唯一、核の被害を受けなかった旧日帝の都市で、革命後は日本連邦人民共和国の首都が置かれた。革命後のロシア人移民受け入れ政策で、札幌市内の移民の割合は70%を超えている。その市内の中心部に、一際大きな高層ビルが立っており、人民労働党の本部として活用されていた。ビルの最上階、65階の執務室に座っていた、ペトリスカヤ党議長は、党大会開催の報を受けて、準備に取り掛かっていた。
党大会が開会されると、はじめに革命烈士を讃えて黙祷を行い、革命歌インターナショナルを斉唱し、議長の年指針演説に移る。この恒例の流れは踏襲されなかった。世界各地からの来賓が紹介され、その様子は国営・民放を問わず、国内全土で放送されていた。最初に行われた行事は、ソ連邦大統領マクシモヴィチの挨拶だった。
「全世界の同志のみなさん、ごきげんよう。諸君の革命活動は今日も多くの労働者に希望を与えるだろう…」
この言葉から始まった演説は、10分程度続いて、最後にこう締め括られた。
「今年は、西側の反動勢力が、全世界から消え去り、世界は民主主義統一戦線の下に、統一されるでしょう。」
この発言は各国に波紋を呼ぶことになるが、その後に続いた各来賓の面々、連邦主席の演説なども、注目の的となった。ドイツ民主共和国国家評議会議長、ブルガリア人民共和国大統領、フランス・コミューン議長、ポーランド人民共和国大統領、ルーマニア社会主義共和国大統領といった、欧州共産圏の元首に加えて、朝鮮人民共和国国家主席、中華人民共和国国家主席、ベトナム社会主義共和国大統領、ラオス民主共和国大統領、ビルマ連邦議長、カンボジア人民共和国大統領といったアジア共産圏諸国の元首、日本社会民主党委員長やアメリカ共産党書記長、グレートブリテン共産党議長など、西側主要国の共産党代表が勢揃いしていたためだ。何より、ペトリスカヤ連邦主席が方針演説の最後に、
「西日本の同胞のみなさん、貴族支配を打倒し、民主共和政体を打ち立てましょう!」と締めくくったことは、極東革命期の日本共産党議長、宮野建太を彷彿とさせるものがあった。党の施政は例年通りだったが、革命の予兆を感じる大会だったらしく、翌日開会された連邦人民議会でも波紋を呼んだ。人民議会第3党である日本社会党は、ペトリスカヤ主席の方針に反発して全ての審議をボイコットした。この模様は国内全土で放送されたが、国民の大半は日本社会党に同調し、人民労働党への反発を強めている。いくら議会第1党とはいえ、人民労働党の人気は低く、ソ連邦の威光を傘に着ていると思われているようだ。第2党の日本共産党も、国内の評判は芳しくない。直接選挙の結果が反映されない議席配分は、日に日に国民の不満を増大させている。
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党大会終了後の議長執務室。ペトリスカヤは1人、窓の外に見える札幌の景色を眺めていた。自らが推進した「日帝建造物刷新運動」の通り、街中には伝統的建造物など微塵もなく、高層ビルが理路整然と並んでいる。彼女はふと、執務机を眺めた。机の上には仕事用具の他に、家族で撮った写真が写真立てに入れられて、飾ってある。その写真を見て彼女は落ち着きを取り戻し、暫し逡巡して、連邦副主席を呼ぶことにした。
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党大会開催時、大和人民共和国の首都、新播磨市では人民警察が慌ただしく動いていた。
日本社会党委員長や書記長が、新播磨議事堂前に集結しているとの一報を受け取ったためだ。国内情勢は確実に悪化しつつあった。
一見関係ないように見えますが、後々本筋に絡んできます。
設定集を第一章終了後に投稿しますので、暫しお待ちを〜
次話は閑話です。