ロマンチック兄弟
地球とは遠く離れた星に、地球の言葉で言う、いつも空想的な何かを求める兄弟。すなわち、ロマンチック兄弟と呼ばれる兄弟が地球にやってきた。それも当然、地球にロマンチックを求めてやってきたのだ。
兄弟がロマンチックにかける思いは半端ではない。
ロマンチックを見つけるために兄弟は地球について四六時中勉強し、体も地球人に合うように組み替えた。言葉だってどこの国でもヘッチャラだ。
地球に降りた兄弟は、まず、自分達の星とは違う風景に感動。
兄弟が全体図の地球を見たときの感想は、素直に地球は青い星だった。
しかし、入ってみるとこれだけの自然。すなわち、緑であふれている。緑は青に負けていないのだ。これ程までに完成された青と緑の比率があるだろうか。
そこで生きる人間や動物。青と緑を引き立てるように、のびのびと建つ建物。砂や石を代表とする他色も負けていない。
地球のそんな風景に、兄弟は地球に心臓が爆発しそうなくらいの期待感が生まれた。
そんな兄弟は地球の文化に触れて触れて触れまくった。
兄弟が見てロマンチックだと感じる何かをとことん感じまくった。
兄弟は映画をとてもロマンチックだと感じた。
沢山の生物を使い、映像を動かすことで、心を燃やしたり、心を泣かせたりできる凄い技術である。
中でも、兄弟が最も印象深く感じたことは、皆、同じ役者と呼ばれる生物なのに、役者によって違う個性があり、役者の中にも人気や不人気がある。人気の役者は沢山の作品に使われ、兄弟も初めは「この役者は、さっきの映画に出ていたじゃないか。なんでこの映画にも出ているんだ?」と混乱したものだ。
その他にも、音楽や漫画や小説やスポーツ。全て、同じように心を燃やしたり心を泣かせたりできる技術だ。
しかし、全て違う。音楽も漫画も小説もスポーツも映画のように映像を動かしているのではない。音楽は音で伝える技術。漫画は絵で伝える技術。小説は表現で伝える技術。スポーツは実際に挑戦することで伝える技術。どれも全て違う技術によって伝わるのだ。
兄弟は、この事実が最もロマンチックに思えた。自分の星にはない何かを伝えるロマンチックな技術がこれだけあったのだ。これ程のロマンチックを生んだ地球を心より賛美した。
ここで兄弟の住む星へ帰っていれば、地球はとても素敵で綺麗な星で終わっていた。
だが、兄弟は見てしまった。地球へのロマンチックを求めすぎて見てしまった。
地球が……生物が……人間が生んだ最もロマンチックではない技術。
戦争。
兄弟は落ち込んだ。
戦争によって沢山のロマンチックを生む生物達が死ぬ。地球の完成された風景が消し飛ぶ。
そこに残るものは生物の死体と完成された風景のカケラもない、無駄な荒地のみ。
いや……
「弟よ。戦争の先には何が残ると思う?」
「戦争で勝った方の微笑み。負けた方の絶望かな。悲しいけど、人間は一つの塊で生きているわけじゃない。役者と同じように、国と国……いや、人間には皆、違う個性がある。そんな中で共存するのは無理なのだと思う。でも、そこには一つ人間を繋ぐ切り札がある」
「金か……」
兄は何を考えずとも答えが出た。
戦争で勝った方の微笑み。それは、戦争で勝つことにより領地が増える。それによって、勝った方の国一人一人が裕福になる。つまり、金が増える。負けた方の絶望。つまり、命が無くなる。命が残っても一生、裕福に暮らすことは無いかもしれない。大体は勝った方のいいなりとなる。
そこから一つの結論が生まれる。
勝った方の国は第一に金を考える。負けた方の命など考えやしない。
兄弟は、ある漫画の一つの台詞を思い出す。
『金は命より重い……』
兄弟にはこの言葉が、心から身にしみた。
「戦争や金とはそれ程大事なものなのか? 戦争も金もロマンチックが感じられないじゃないか! 人間は、ロマンチックを感じたくて映画を……音楽を漫画を小説をスポーツを! 生み出したんじゃないのか……? なのに、結局はロマンチックを捨てるのか? あまりにも勝手な話ではないか!」
「兄ちゃん。僕は思ったんだよ。技術を生み出すって事は一段階成長するって事で、一段階成長することで新たな技術が浮かぶ。それは、ロマンチックあふれる技術もあるだろうし、僕達には理解できないロマンチックなんて微塵も感じられない技術もあると思う。それがきっと、戦争や金だった。地球にとってはそれだけの話なんだよ」
兄弟は話し合った。
兄弟がロマンチックに関する話以外をこれ程話すのは初めてのことだ。
しかし、そこには結論など無い。全てを壊す戦争には……全ての人間を洗脳する金には……賛美の言葉は見つからない。
ロマンチックを追い求める兄弟が、ロマンチックの無い話をしてまとまるわけが無い。
だが、確定する事実もある。
兄弟が地球にやってきたその時。当然、人間達は戦争を繰り返していた。でも、地球の全体図は青かった。完成された青と緑の風景に感動した。映画・音楽・漫画・小説・スポーツ。他にも色々な技術にロマンチックを感じた。しかも、その技術は消える気がしない。いくら、戦争で人が死んでも消える気がしないのだ。金だってそんな技術を見るために……いや、生きるために必要だ。
戦争をしても、金に人間が誘惑されても、地球が変わることは無い。地球にダメージなどありはしない。ならばどうなる? 終わることは無いのだ。そこには結論は無い……
兄弟はロマンチックを満喫した。兄弟の住む星にはないものを沢山体験した。
しかし、心は晴れない。ロマンチックな気分になれない。
こんな兄弟の気持ちを、どんな言葉で例えればいいでしょう?
なんだか、題名と反してロマンチックではない話になってしまいました(汗)