変わらないと思っていた日常
高校生になれば少しでも変わるのかと思えばそんなことはなかった。中学生の頃と一個も変わらない。逆に劣化したと言えるだろう。最先端と言わんばかりに気取ったアクセサリーを身に付け自分は女王だと言わんばかりの傲慢な意見ばかり言っている。あれを会話と言うのなら、先生が教卓から支持することも会話になってしまう。
「わーちってやっぱり最先端の人間じゃん。だからわーちと対等に付き合えるのは、佐藤君しかないの」
「「さすが」」
と、周りは相槌を打つ。周りの顔の表情は硬く無理して笑顔をつくっている。それに、最先端を気取る女王が言っている佐藤君は、バスケ部のエースで将来も期待されている未来モンスター。それに顔立ちもよくコミュ力も高い。誰にでもやさしく接する人で勉強はいつも学年トップ。そんな完璧超人な人間しか付き合えないとは、お前はどんだけ完璧超人なんだよ。
机に伏せて行ういつも人間観察。榊原 智也にとってはいつも日常である。
智也は、身長170で細身。顔立ちも可もなく不可もなくといった感じの高校一年生。五月五日が誕生日で、今は16歳だ。
今日は7月19日で、終業式のある日だった。それでも変わらず気取る人間。そんな人間に胡麻をする。何が楽しくて生きているのか訊いてみたい気もする。
智也はいつか訊いてみたいと思いつつ机に伏せて寝ようとした時だった。
バシッ。と、誰かが人のほっぺを叩く音が教室で響いた。
「いって、わーちに何すんのよ!」
激高したわーち、菅原 美玖は、彼女を叩いた女子である佐々美 鏡花の胸倉を掴んでいた。
「あんた、わーちにしたこと分かってんの?もうあんたの人生は終わりだね」
美玖の顔には血管が浮かび上がっていて赤く本気で怒っていた。そんな美玖を鏡花は鼻で笑う。
「終わりなのはあなたの人生だと思うの」
にこやかな顔をした鏡花はそこにいた。次の瞬間、一人の女子の叫び声が教室内に響き渡った。
美玖は「えっ……」とした顔をしていた。智也は、何がどうなったのか分からなった。だが、周りの男子や女子の顔は血が回っていないのか思うほどに青かった。
美玖の口からは血が出てきた。そして、鏡花が美玖から離れるとお腹を手で押さえていた。だが、赤い血がぽたぽたと垂れていた。
鏡花は笑って言った。
「あなたには私の人生を終わらせるほどの社会的地位があるの?まさか、クラスで女子を従わせ、カーストの最上位にいるから世界が私に回っているとでも思っていたの?恥ずかしい人。醜い人。何も努力しないで親から買ってもらったものを自慢げに掲げて楽しかったの?私はそれを見て面白かったわ。だって、自分がゴミだと分からずに意味不明な行動をしているんですもの」
智也は額に冷や汗を浮かべた。こいつは鏡花じゃない。いつも大人しくて読書ばかりしていた鏡花がこんな残忍で残酷な人間だったとは考えられないのだ。
弱っていく美玖は、倒れる。それを助ける女子は一人もいなかった。
「あら、残念ね。いつもの取り巻きはあなたを助けないのね。愉快、実に愉快だわ」
そう言って鏡花は、美玖の顔を蹴った。
周りはそれをただそれを見るだけだった。智也もその一人だ。
だが、雰囲気に耐えれなくなった智也は、
「これは、あ、あれだろ。何かのドッキリでしたーの展開だろ」
冗談交じりに言った言葉に鏡花は首を90度曲げて智也を見つめた。
「あなたは、死にたいのね」
冷たい宣告が智也に死を感じさせた。
智也は、鏡花から逃げようとしただが、足が動かない。なんと足が黒い何かで固められていた。
「な、なんで」
「当たり前でしょ」
鏡花は微笑みながら言う。
「見られたのだから消さないと」
気が付くと周りの人間の目からは血の涙を流していた。
「痛い。痛いよ」
「目が。目がぁぁぁぁぁ」
叫び声に嘆き声。ここは地獄なのかと思ってしまった。
智也は逃げれない。逃げることが出来ない。
後、数メートルまで鏡花は迫ってきていた。
「あなたには、私の本当の名前を教えてあげる」
そう言って鏡花は、手に持っているナイフを智也の心臓に刺し、智也の耳元で言う。
「憑黄泉」
と。
何度も何度も書き直し、この作品は白紙に戻そうと何度も思った一作。今年の六月ごろにこの企画を思いつき、新人賞応募原稿と並行して書いていたために遅くなりました。出始めが気に入るまで書き直しました今作。エナジードリンクは自分にとってのガソリンです。