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魔法は踏ん張る禁呪系

「おい、てめぇこれはなんだ」

「な、なんだと言われても頼まれてたお風呂だけど」


チンピラ座りしてタバコふかしてるリビングアーマーの前で戦うでも逃げるでもなく風呂場の床で正座をさせられている男の光景。

おそらくこの珍妙な光景が見れるのもここ、モンスター保護区だけだろう。

ていうかきちんとタバコの煙が口?の部分から吐き出されてる。

どういう構造になってるんだろう?


「あのー。なんで俺は正座させられてるんでしょうか?」


リアラちゃんことリアラ様は深いため息をついた。


「これお湯だよな」

「そうだけど」

「水だよな」

「水だね」

「鉄は水に濡れるとどうなると思う?」

「錆びる?」

「で、私の鎧は何で出来てる?」

「鉄?」

「じゃあ私がこれに入ったら?」

「錆びる?」

「錆びる?じゃねぇよ!分かってんだったらこんなもの用意してんじゃねぇよ!」

「ええええええ」


風呂用意しろって言ったのはそっちじゃないか。


「風呂って言ったらオリーブオイルたっぷりのヤツを言うんだよ。ったくこれだからトーシローは」

「と、とうしろう?」

「素人ってやつだよ素人。お前アイドル業なめてんだろ」


リビングアーマーにアイドル業言われても…


「アイドルってのは戦なんだよ。他の女のアラを見つけて蹴落として愛想振りまいてコネ作ってその他大勢にならないように必死なんだよ。分かるか?」

「いや、分かんな」

「でだ。この私の玉の肌に錆でもついてみろ。この人気アイドルの私の首を取りにそこら中の売れてないアイドル共がうじゃうじゃ出てくるんだぞ。ハーピー、マーメイド、ヴァンパイアその他諸々。世はアイドル戦国時代突入だぞ」

「そもそも首が無いじゃないか」

「し・か・も!あることないこと書かれた挙句、 適当な男と結婚させられて引退まで追い込まれるんだ。よしんば業界に残れてもママさんタレント枠か芸人がやるような仕事しか巡ってこなくなる恐怖がお前に分かるか!」

「え、リビングアーマーって結婚するの?」

「な・の・に!お前ときたらこんな湿気たっぷりの空間に私をぶち込もうとしたんだ。どうしてくれんだああん?」


ぐいっと顔というか兜?部分を近づけておそらく俺にガンを飛ばしている仕草をしている。


「す、すんません」

「つーわけで、オリーブオイルの風呂用意しとけよ。純度百パーのやつな。しくよろ」


ガシャンガシャン音を鳴らしながら風呂場から出ていくリアラ様。

モンスターのアイドル業界の知らなくてもいい裏事情を垣間見た気がする。

また一つ現実というものを知ってしまった。

大人になるって夢がどんどん無くなることを言うんだね。

最近涙腺が脆くていけないね。

いい加減俺も学ばないと。

モンスターはやっぱりモンスターだって。


「モトキや、ホストクラブはまだかいのう?」

「借金返してからほざけ。っていうかエルデ婆、いたなら助けてよ」

「最近耳が遠くてのう。今夜行くのかえ?」

「だから行かないっつってんだろ。どんだけ行きてぇんだよ」

「最近耳が遠くてのう」


エルデ婆がボケてないのはもう周知の事実。

都合が悪くなるとボケだすのもお約束。


「ところで清掃の仕事終わったんですか?」

「最近腰が痛くてねぇ」

「あ、ここにホストクラブ『銀翼のイブ』のホストの写真集が」

「まだまだ若いもんには負けてられないねぇ」

「このホスト狂いが」


ホストクラブ、銀翼のイブ。

エルデ婆が指名手配されるまで金を貢ぎまくったホストクラブ。

たまに餌を見せないと一向に働こうとしないので定期的にグッズを流してもらうようにしてもらっている。

どうやってだって?

アネッサさんがバックにグロリアちゃんを連れて恫喝…交渉した結果です。

相当アコギな商売してたらしいので国から目をつけられたっぽい。

トップの関係者が謎の失踪をしたことでクリーンな経営に切り替わったとのこと。

新しい経営は元ナンバー1ホストのツバサというやつがやるらしい。

エルデ婆が破産した直接の原因の男でもある。


「魔法使って秒で終わらせたよ。モトキ」

「普段からそれやれよ」

「ツバサくん、やっぱりかっこいいねぇ」

「聞けよ」


仕事をやれば出来るエルデ婆。

でも致命的にやらない。

凄い人なのにやらない。

魔法使って終わるんなら全部やってくれよ。

アネッサさんも魔法使っていろいろ仕事サボってるらしいし。

ちなみに俺は魔法を一切使えない。

ていうか使えたら実家を追い出されてない。

どうして才能ってこうクズに行くのだろう。

世の中って不公平だ。


写真集をハァハァ言いながらガン見するエルデ婆を恨めしそうに睨んでいると


『モトキ、あのエルフはやめとけ。お前じゃ無理だ』


と肩に乗ってきたスラ兄が何を勘違いしたのかとんでもないことを言ってきた。


「とりあえずスラ兄、肩が濡れるのでどいてくれない?」

『馬鹿お前、肩に王様が乗ってるんだぞ。そこは乗ってくれてありがとうだろ』

「せめてまるまった状態でやってくれません?そのでろんでろんの緩みきった状態じゃなくて」

『んで、なんであの新人を見てたんだ?恋か?』


話を露骨に逸らしてきやがった。

そんなにスライムが丸い状態でいるのキツイの?

スライムは未だに謎が多い生物だ。


「恋じゃないよ。エルデ婆もアネッサさんも魔法が使えて羨ましいなーって」

『なんだそんなことか』

「そんなことって、魔法が使えない俺からしたら羨ましいもんなんだよ」

『なら魔法を覚えればいいじゃないか』

「そんな簡単に言わないでよ」


はぁ、と思わずため息がでる。

魔法が使えないからこんなとこで働いてるんだというのに。

魔法が使えてたらまずこんなところで落ちぶれてない。


『俺が教えようか。水魔法』

「はい?」


スラ兄がとんでもないことを言い出した。


『だから俺が教えてやろうか。魔法』

「スラ兄、魔法使えんの?」

『当たり前だろ。俺、これでも王様よ』

「すっかりそのこと忘れてたよ」

『おい、教えねぇぞ』

「すんませんでした!教えてくださいスラ兄様」

『兄の後に様をつけるな。気持ち悪い』

「えぇ…」


スラ兄が教えてくれるというのでモンスター保護区の広い場所にでた。


『まず必要なのはイメージだ。体内で何かを踏ん張るイメージ』

「踏ん張るっていっても」

『こう腹の中に何かを貯める感じで』

「う~ん」


踏ん張る、踏ん張る。

腹の中に貯める。

うん、わからん。


「トイレを我慢するイメージよ、モトキ」

「フゴフゴ (性欲を我慢するイメージよ、ダーリン)」

「ナイフデササレタイタミヲガマンシテルイメージダ。ドレ、サシテヤロウ」

「収録が長引いてタバコ吸うの我慢する感じじゃね?」

「ツバサくんに会いたいねぇ」


面白そうな匂いを嗅ぎつけたのかアネッサさんと愉快な仲間たちがどこからか湧き出てきた。

こいつらマジで暇なんだな。

そしてろくなアドバイスがとんでこねぇ。


『まぁ、全部あながち間違いじゃねぇな、最後の以外』

「え、あれで?」

『とりあえず何かを我慢するイメージだ。腹の中がどんどん熱くなっていくはずだ』


我慢、我慢。

モンスター保護区皆への殺意かな?

我慢というか殺そうとしたら逆に殺されるから出来ないだけだけど。

ゴブサップは刺し違えてでもいつか殺す。


『お、それそれ、そんな感じ。それを一気に外へ吐き出すイメージだ、水を吐き出す感じな』

「吐き出す」

「吐しゃ物を吐きだすような感じで」


アネッサさんがまた余計なガヤを言ってくる。

やめてくれよ、すげぇ想像しやすいけど。


『見とけよー、ほれ』


スラ兄が光ったと思ったら水の塊のようなものが飛び出ていた。


「おー!」


魔法だ。本物の。


「お、俺も、えい!」


勢いをつけるように手を前に差し出す。

すると指から液体がチョロチョロと流れ出てきた。


「おー!魔法だ!」

「しょぼいわね」

「うるさいですよアネッサさん、俺にもついに魔法が」


こんな簡単な方法で魔法使えたのか。

確かにショボい感じで指先から出てくるだけだけど。

ってあれ?

この液体赤くない?

水じゃないような。


「モトキ、その魔法早く止めないとまずいわよ」

「えっ、なんでですか?」

「それあんたの血液だから。血無くなり過ぎると死ぬわよ」

「え、だってスラ兄が水魔法だって」


ふとスラ兄の方を見るとスラ兄がいつもより半分ぐらいのサイズになっていた。


『みず、み、みず』


と水を求めていた。


「あれって自身の体内の液体を外へ吐き出す魔法だから。大抵のスライムはあれ使っちゃうと死んじゃうからまず使えない自爆技なんだけどスライム君は根性で耐えるのよ」


また無駄に生命力高いなスラ兄。

あれ?ってことは


「え、俺このままだと死にます?」

「だからそう言ってるじゃない。そもそもって詠唱無いタイプは禁呪系だから止めといた方がいいわよ」


今それ言うなよ。

知ってたなら止めてくれたって良いじゃない。

というか


「うおおお!ちょっと待って!どうやって止めるんすかこれ!」

「こう戻すイメージ?吐きかけたものを無理やり飲み込むような?」

「分かるような分からないような!っていうかさっきから例えが全部汚い!」

「がんばれー」


5分後、俺は貧血で自分の血でできた血だまりの中に倒れこんだ。

第三者が見たらどう見ても殺害現場である。

俺は誓った。

魔法はもう二度と習わない。

そしてスラ兄も頼らない。

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