誰にも見せたくない
あの日、妻が死んだ日は、どうだっただろう。
コンビニでカードを買って帰った。
バリアブルアイフォンカードを買って帰った、たしか三千百六十円だ。
妻は、スマホゲームにはまってて、キャラクターを買うのにそれがいるとかでよく買って帰った。
ゲームの男性キャラクターに嫉妬しなかったかだと?
するか。
だってそいつらは妻に触れることなどできないじゃないか。
俺が恐怖を感じるのは妻を直接傷つけられる人間だけだ。
そしてそれはもういないんだ。
妻は想像でそいつらと戯れていたのではだと?
はっ、馬鹿々々しい。
どうやってだ?
相手は二次元だぞ、そして妻はそんな女じゃない。
あの女は俺のことがとても好きだった。
奥様の死体を見つけた時どんな気持ちでしたか、だと?
もう憶えていないが、誰にも見せたくないと思った。
医者もそうだし、葬儀屋なんぞに触らせるのは絶対に嫌だと。
だから焼こうと思った。
幸い家は一軒家だったし、近所に民家もなかったから、他人に迷惑をかけることもない。
まあ、そんなのは杞憂だったわけだな。
一週間もすれば、人類は滅亡したのだから。
妻の死因?
心不全だ。
若いのにな。
妻が死んで悲しかったかだと?
悲しいが、同時に妙な達成感があった。
もう、この女を他人に取られるということが無くなった。
永久にだ。
妻は鍵をしっかりとかけ、誰の助けも求めず死んでくれた。
ソファに横たわる妻はまるで昼寝をしている様にしか見えなかった。
ホルマリン漬けにしようと思わなかっただと?
思うか。
妻の死体を焼いた、しっかりと骨すら残らないように。
それからのことはあまり覚えていないが、逮捕されたのは覚えているが、どうでもいい。
俺が何故生き残ったのかは、よくわからないが、俺の望みは叶ったことになる。
妻は俺だけの妻になった。
もう誰の想像の世界にもいない。
俺が妻を外に出したくなかったのは、誰にも見てほしくなかったのは、結局それだ。
想像で妻を使うものがいても、俺はそいつらに社会的制裁を加えることもできず、指をくわえて見ているしかできなかったのだ。
妻は俺と結婚するまでは、普通に学校に行っていた。
その十八年間の間に妻の名誉を傷つけた男がどれだけいたかと思うと、今でもそいつらをまとめて殺してやりたいと思う。
皆死んだ?
そうだな。
もう妻を想像できるのは俺だけだ。
俺だけの妻。
どんな奥さんでしたかだと?
教えたくないな。
だって妻の詳細な描写などしたら、お前たちのようなものでも、想像するだろう?
しない?
そうだな、妻は出逢った時は、髪は長かったな、腰くらいまであったんじゃないか。
高校の卒業式が終わると切った。
それ以来美容院に行かなかったから、死んだときには出逢った時と同じ髪型になっていた。
色白で小柄だった。
俺の身長が高いのをいつも褒めた。
これ以上はもういい。
一人で思い出したい。
どうしてそんなに奥さんが好きなんですかだと?
知るか。
俺の生い立ち?
関係ないな。
俺の両親は俺が大学生の時に相次いで亡くなったが、別に問題のある両親じゃなかった。
俺は子供に暴力を振るったり、飢えさせたりするような両親でないなら、それは普通の親であると思っているから、俺の両親は普通だったと思う。
だから、俺がこうなったのは、そうだな、あの女の、妻のせいだろうな。
奥さんに会いたいですかだと?
毎日会っている、問題はない。
もう誰も会えないのに、俺だけは会える。
俺がこうして生きている限り。