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ようこそ、我が探索部へ!(原作:宮座頭数騎先生『我が探索部の異常依頼』)

 これは、カンコツ工房先生の、“換骨奪胎小説プロジェクト”の暖簾分け作品です。依頼を受けた作品を新たに作り直す……簡単に言うとリメイクしてみよう、という企画です。今回は宮座頭数騎先生から依頼を受けました『我が探索部の異常依頼』をリメイクしてみました。宮座頭数騎先生の作品とあわせて、是非読んでみてくださいませ。

「おい!まじかよ。やめよーぜ。俺、なんか嫌な予感がするぞ」

「いいから、いいから、絶対たのしーから」

 某高校の廊下、放課後の人気のない廊下を、俺らはとある事情に言い争いながら歩みを進めていた。俺の手を無理やり引きずるよう歩いているのが友人の神崎ヒロシ、そしてその彼に引きずられているのが俺望月ケントである。その俺、望月ケントがこうして神崎に手を引かれる理由とは、それは……。

「なぁ、ケント。探索部に入らないか?」

 今日の昼休み、不意にこぼした神崎のその言葉からだった。

「な、なんで突然探索部?」 

「だってさぁ、探偵みたいな真似ができるって噂だぜ。面白そうじゃね。殺人鬼を追い詰めたり、世間のお騒がせに探りを入れていったり、なんか、心霊スポットとかにいって、探検みたいなことをしたりとかもするって」

 入学して三ヶ月。お互い友人同士になってからも三ヶ月。二人とも帰宅部を満喫していたが、一体何に影響されたのか、その退屈にとうとう屈しでもしたのか、どこかロマンに浸るかのよう、夢見心地でそう神崎は言ってきたのだ。だが、それに俺は胡乱げな眼差しをし、購買部で買ったパンをむさぼる口を休めると、

「それって、面白いんか?なんか、やばい臭い漂いまくってるようにしか思えないんだけど。それに、噂は噂、実際はどんなんだか」

 友人を思っての忠告。だが、それに神崎は……どうやら心は冒険とロマンの世界へと旅立っていってしまっているらしく、何も聞いてはいないようであった。そう、ただひたすら恍惚とした表情を見せてくるばかりで……。そして、不意に目をらんらんと輝かせながら、神崎は俺の手をがしっと握ってくると、

「せっかくの学園生活、時間は有意義に使わないと。ケント、絶対絶対絶対決まりだよな。なら、思い立ったらすぐ決行!今日の放課後、早速行くぞ!」

「あ……ん」

 呆然とする俺。だがそんな俺などお構いなし、一人先走り、神崎はさっさとそう決断していってしまったのだ。

 そして……。

「えーっと、探索部、探索部……」

 とうとうやってきた放課後、その場所を目指して廊下を行く俺達がいる。どうやら聞くところによると、探索部には空きの教室が割り当てられているらしい。なので、その情報を頼りとして、こうして校舎内を彷徨い歩く俺らがいる訳だったが……、

「あった、ここだ!」

 ようやく見つけた目的の場所に、明るい表情になる神崎。そして、嫌々ながらの俺を引きつれ、ガラリと扉を開けると、

「探索部に入部希望の神崎と望月、一年生です!どうぞよろしくお願いします!」

 入っていきなり、やる気満々、元気いっぱいの自己紹介、それも自分だけでなく、わざわざ俺の分までしていって……。

 するとその声に、中にいた者達が一斉にこちらを振り返る。その数、一、二、三人。少し小太りの坊主頭の男と、どこかひねくれたような眼差しをした長身の男と、眼鏡のいかにも真面目そうな顔つきをした男。

 最初は驚いたような表情をしていた彼らだったが、そのうちその中の長身の奴が、ふふんとどこか人を見下したような笑みを口元に浮かべながら、こちらへとやってくると、

「入部希望……か。おまえら本気か?はたで見るより結構ハードな部だぞ。ちょっとやそっとの心構えじゃあ、続かない」

 それに神崎は、まだ冒険とロマンに浸りきったような眼差しをして、

「はい!全て覚悟の上です!」

 だが俺は、できればパスしたい気持ちになっていた。元々乗り気じゃなかったんだから、そんな言葉を聞けば、そういう気持になってしまってもおかしくはないだろう。だが、そう簡単に物事は許されない、ずっと無言のままの俺を、その長身の男は見遣ってくると、

「おまえは、えー……」

「望月です」

「そう、望月。おまえはどうなんだ」

 それに俺は口ごもる。

 やっぱやめます、本心はそういいたかったのだが……神崎の手前そうはっきりともいえず、思わず躊躇していると……、

「勿論ケントも入部だよな、な」

 すかさず神埼がそう言ってくる。

 そして神崎はその長身の男を見遣り、

「二人とも入部です!」

 神崎の言葉に、半ば諦めのような、落胆にも似た複雑な気持ちが俺の胸に湧き上がってくる。そして、

 フフフ……終わったな……。

 思わずそう呟く俺。すると、

「ふ……ん。そうか。じゃあ決まりだな。俺は部長の半田。三年の半田シンゴだ。で、あのデブっちょが橘トオキ。二年だ。それから眼鏡が緑川サトル。同じく二年」

 部長半田さんの紹介に、部員が一人一人俺らに向かって頭を下げてゆく。そうして一通り自己紹介が終わると、部長は、

「だが、おまえらの入部はちょうど良かったなぁ。実はついさっき、仕事の依頼がきてな、新聞部からの依頼だ。で、人手が欲しかった所なんだ」

「え、なんっすか、それは」

 その言葉に、今初めて聞いたよう小太りの橘さんが部長に向かってそう言う。どうやら彼らも初耳だったらしい。勿論俺らもそれは初耳で、入って早々いきなりの初仕事に、興味を引かれて身を乗り出してゆく。

 するとそれに部長は、「それは……」ともったいぶったように言ってゆくと、

「究極のゲイの、実態調査だ」

「究極のゲイ??」

 低く響くその言葉に、皆が皆、声をそろえて驚いたようにそう言う。

「そう、どうやら学校の近くにある×××××公園にはゲイを極めたという男がどこかに住み着いていて、真夜中にそこを通ると、少年という少年、皆その男の餌食となり、×××をされてしまうというんだよ。そして朝目を覚ますと、×××に痛みを残して、手に札が握られているとか。巷ではゲイ伝説とも言われている」

「ゲイ伝説!」

 またもや声をそろえる探索部一同。そして、その驚きでちょっとずれた眼鏡を直しながら、緑川さんがポツリ、

「で、またそれが、新聞部とどういう関係が……」

 するとそれに部長は頷き、

「元々これは新聞部のネタだった。現場へ行ってこの伝説を確かめようと、何人もの猛者達がチャレンジしていったが、男子部員は全員この究極のゲイに襲われ精神崩壊。それを目の当たりにした女子部員も、心にトラウマを負い、ショックで引きこもり状態になってしまったそうだ」

「で、代わりに我々にと、依頼が?」

「その通り!」

 そう言って部長は口元に不敵な笑みを浮かべる。そして、

「という訳で、今日の夜中に×××××公園に行き、その究極のゲイをビデオカメラで追跡撮影をする。勿論隠し撮りだ。そして、衝撃の瞬間を撮ろうという訳だ」

「……」

「……」

「……」

「……」

 みんな、無言だった。それも当然だろう、わざわざ自分から進んで、そんな危険なことに首をつっ込もうとは、普通誰も思わないだろうから。そう、たとえ探索部だとしても。なにせ下手をすれば、その先は……。

「お、おれ……今日は用事が……」

「僕は塾があります……」

 ズリズリ後退りながら緑川さんと橘さんがそう言う。

 いまや神崎も冒険とロマンへの憧憬は消え、ひたすらおののいて彼らと一緒に後ずさっていた。

 当然のことながら、俺も。

 だが、部員達のその様子に、部長は面白くないような表情をしてゆくと、

「ああ、誰に行けとは頼まない。全員で行くんだ!全員でなら恐くないだろう。なんていったって相手は一人なんだから」

「で、でも……」

 まだ納得がいかないよう、そう緑川さんが食らいつく。だがそれに、部長は瞳の中に剣呑な色を浮かべ、

「部長命令だ」

 誰をも黙らせるような、凄まじい迫力だった。それに緑川さんも、その他の部員も何も言い返せなくなり、そして……。

 結局、今日の夜十一時に、俺達は皆公園前に集合することになったのだった。

 そして俺は思う。ああ、あの言葉は伊達じゃなかったのだ、と。はたで見るより結構ハードな部だぞ、というあの言葉が。確かにハードもハード。まさか、入部初日に究極のゲイの隠し撮りに同行することになるとは!


 そして夜中の十一時、部員達は公園前に集合すると、早速園内へと入っていった。常夜灯のみの薄暗い夜道。そこをどこかおどおどとしながら部員達は先を行く。そして適当なところで立ち止まると、部長、緑川さん、橘さんは近くのベンチに腰掛け、俺と神崎はその前に立った。とりあえず一息。そして、まずはといった感じで緑川さんが真面目腐った表情をすると、

「で、役割分担はどうするんですか?」

 そう言って隣の部長を見た。するとそれに部長は「まぁまぁ」と言うと、何故か担いできたクーラーボックスの中から、五百mlウーロン茶のペットボトルを取り出し、

「飲み物でも飲みながらゆっくり話し合おうじゃないか」

 そう言って再びクーラーボックスへと手を伸ばしていった。すると、出てきたのはまたもやのウーロン茶で……。いやそれだけではない、その次も、またその次もウーロン茶。そして最後に出てきたのは……チョコレートパフェ。

 え、パフェ?

 それから部長はクーラーボックスの蓋を閉じると、その上に四本のウーロン茶とチョコレートパフェを並べていった。それは、どこからどう見ても異様な光景で……。何か裏がありそうな臭いがぷんぷんするそれに、俺はこれでもかというほどそのパフェを睨みつける。だが……よくここまで形を崩さず持ってこれたものだと感心……いや、感心してる場合じゃないだろうがっ!

 大体パフェは飲み物じゃないし!

 そんなことを俺は思っていると、部長がウーロン茶を一本手に取り、

「さぁ、みんな。どれでも好きなのをもってい……」

 け、という前に、

「いただきまーす♪」

 そう大きな声が響いて、クーラーボックスの上のパフェとスプーンにすばやく何者かの手が伸びていった。そしてそのブツを持っていった者とは……。

「う、うめぇなぁ……これ!」

 世にも幸せそうな表情をしながら、そのパフェをむさぼる、小太り橘さんの姿があった。

 だ、だ、だ、大丈夫なのか?

 何の疑問もないように、生クリームやアイスを口に入れてゆく橘さんに、流石に俺も心配になり呆然とみつめる。それは神崎や緑川さんも同様で……。だが、ふと前を見てみると、ただ一人部長は……いつもの不敵な笑みを浮かべ、じっと橘さんを見つめていたのだった。いや、不敵なというより、なんだか嫌な予感を感じさせる不気味な笑いを口元に浮かべ……。すると案の定、橘さんがパフェを半分ほど食べ終えた頃、

「う……」

 そう言葉をもらし、橘さんがベンチからずるりと崩れ落ちていったのだ。そして、

「か……体が、動かない……」

 ぴくぴくと体を震わせながら、橘さんはそう言葉を搾り出す。

 何故?と思いながら、だが、思い当たるものはどう考えても一点しかないと、俺達は一斉に部長を見る。そう、あのパフェか?と。

 すると部長は飄々とした態度のまま、

「まぁ……こういった探索には、囮が必要だ。可哀想だが、彼には囮になってもらおう。そして、決定的瞬間を激写、だ!」

 ああ、なんと彼はこの依頼の生贄に。

 哀れな犠牲者、可哀想な子羊。

 全てはこうするために仕組まれ……。

 そんな非情に耐えかねて、俺は何とか彼を助けられないかと逡巡していると、

「フォーーーーーーー!」

 不気味な雄叫びが公園の奥から響いてきた。これは、恐らく、あの噂の……。

 俺達の間に緊張が走る。そしてどうしたらいいものかと皆あたふたしていると、部長は、

「このベンチの向かい側の茂みに隠れるぞ。そしてそこから盗撮だ!」

 そう言いながら、クーラーボックスと共に持ってきた、少し大きめのカバンの中をごそごそとまさぐり出す。そしてそこからビデオカメラを取り出し、部長はベンチの向かい側の茂みへと向かおうとするが……。

 だが、流石に仲間を置いて、そんな非情な真似ができる訳がなかった。その思いを示すよう、俺と神崎と緑川さんは、いまだ惑ってその場から動けずにいると……、

「いいのか、ここにいたら、あいつの餌食だぞ……」

 微笑みながら、部長はそんなことを言ってくる。

 それは、ほんとに悪魔のような微笑で……いや、こいつは正真正銘の悪魔に違いない!

 だが、その時、

「フォーーーーーーー!」

 更に近づいてきた奴の声が、こちらの方へと向かって聞こえてくる。

 そう、もう惑っている場合なんかじゃなかった。

 そして、

 先輩、スミマセン!俺は悪魔になります。あちら側の人間になります!

 そう心の中で呟いて、俺は部長の、そしてこうなっては仕方がないと、それに続く神崎や緑川さんの後をついていった。すると、

「裏切り者〜!」

 悲痛な橘さんの声が、空しく俺達の背に響いてくる。

 そして、ガサゴソと音を立てて、俺達が茂みの中に隠れた頃、

「フォーーーーーーー!」

 とうとう奴が現れた。

 ムキムキの体。ぴったりとした革の衣服に身を包み、腰をフリフリ動かしながら。そして奴は、道端に横たわる橘さんを見つけると、野獣のような光を瞳に湛え、

「フォーーーーーーー!」

 嬉々として橘さんに近づいていった。

 それをひたすらビデオカメラに映し続ける部長。

 そんな彼を横目に、俺は罪悪感に蝕まれる。確かに、これは我慢がならない行為。だが、だがしかし……キュッと手を握り、俺は湧き上がるその感情と必死で闘っていった。すると……。

 究極のゲイの手が、橘さんのズボンのベルトにかかる。そして、それが外される音がここまで響いてくる。後はスボンを脱がし、そして……。

 その後の橘さん、えもいわれぬ屈辱を味わうだろう橘さん。それを思って、不意に俺の心にむくむくと正義感が目覚めていった。

 いかん、いかん、このままじゃいかん、と。

 そして、俺は思い切って……、

 ガサリ

 そう、茂みから出て行ったのだった。

 橘さんを、救うために。この状況を変える為に!そして挑戦的に俺は言う、

「おい、こっちだ。俺が相手だ。やれるもんならやってみろ!」

 嬉々として、俺に向かってビデオカメラを回す部長の姿が目に浮かぶようだった。だが、もうそんなことはどうでもよかった。

 そう、破れかぶれ、半ばそんな気持ちで俺は鋭い視線を奴に投げ飛ばす。

 すると……その言葉に、究極のゲイは橘さんの顔と、俺の顔を交互に見て、しばし考えた風見せる。そして、

「フォーーーーーーー!」

 どうやら俺の容姿は奴のお気に召したらしい、今度は俺へと向かって、奴は駆け出してきたのだった。それを見て、奴から背を向け遁走してゆく俺。そう、逃げて逃げて逃げまくって、この窮地から脱してみせる!と。

 常夜灯の光だけがあたりをほのかに照らす夜の公園。それは薄暗い闇の世界。そこを必死で駆けながら、俺はもてる力の全てを出し切り、奴の追跡から逃げ出していった。


 そしてその頃、公園の茂みの中では……。

「くそっ、決定的瞬間を逃したな」

 苦々しげにそう呟く部長の姿があった。

 できれば茂みから抜け出して追いかけたかった彼であったが、それでは自分の存在が奴に知られる可能性があった。第一、二人ともとんでもないスピード駆けていったから、とてもビデオカメラを手に追いかけられるものでもなかったのだ。

 仕方なく諦め、ひとしきり悔しがる部長。だが……。

 だが、あの究極のゲイが橘のズボンに手をかけたシーンはしっかり録画されている。

 望月があのゲイに追いかけられる瞬間も。

 それだけ撮れればまぁいいかと、そのうち新聞に載るだろう、その写真を思って部長半田は一人ほくそ笑む。勿論、もらえるだろう報酬も思って。

 そして……。


 次の日の朝、俺は公園の野っぱらで、えもいわれぬ程の違和感と共に目が覚めた。その違和感とは、×××の痛み。そして手には札が。

 それを目に、俺はガックリと肩を落とし、つくづく思った。

 ま……負けた……。


                                          了


えー、いかがだったでしょうか?

なにぶんこの企画もこういったジャンルも初めてだったもので、上手く書けたか自信はないのですが……。

でも、面白い原作を提供していただき、私自身とても楽しんで書くことができました!


ただ……○イザーラモンHGさんネタは、今はちょっと旬を過ぎてしまっているのでどうしようかと思っていたのですが、どうにも他に案が浮かばず、原作のまま使用させてもらいました。もし違和感を感じるようなら、HGさんのネタが全盛だった頃に心を戻して、この作品を読んでいただけると幸いに思います!

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― 新着の感想 ―
[一言] 面白かった。笑っちまった。(笑) 単発作品なんだから、ほられるのは部長さんにしてほしかった。(笑)
[一言] 執筆お疲れさまです。 楽しく拝読させていただきました。 本作読了後に原作の方も読ませてもらいましたが、作品の持つ雰囲気を丁寧に生かしつつ、安定感のある文章でストーリーを表現されていたと感じま…
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