第6話 騎士団の日常(エルフ族のサイラーネ)
「反省したかい?」
「は、はひ……」
ぐったりと虚ろな目で答えるサイ。
その口からは涎が漏れ出て来る。
「じゃ、今回は許してあげる。僕は君と友達になりたいんだからさ」
サイを下ろすと、そのまま崩れ落ちそうだったので、副隊長の少女に託してその頭を撫でてやる。
ここにマエラがいたら、「殿下はお友達にそのような行為をなさるのですか?」と言われそうだ。
今回は確かにちょっといつもよりやり過ぎた感はある。
だが、このサイは呆れるくらい頑固なので、次に会ったら、今回の事がなかったかのように、またあの堅苦しい挨拶から入ることだろう。
それをやめるようにこんな行為を繰り返して、それでもやめないのでここまでエスカレートしてしまったのだ。
長寿で有名なエルフ族で、エメフィーと同じくらいの年齢の容姿を持つサイが、少なくともエメフィーよりも年下ということはないだろう。
出来れば、部下ではなく対等になれないかな、と考えている。
サイはエルフ族の族長の娘として生を受けた。
エルフ族は妖精の一種である。
特に彼女たち白髪のエルフは森の中で純血を保って存在している高潔な種族だ。
人より若干小柄であり、外見で言えば、耳が尖っており、また、妖精であるからか、美しい、というくらいで、後は人と変わらない。
だが、その視力聴力は人を遥かに凌駕しており、また獣並みに素早く、その割に手先が器用だ。
特に野望を持たない種族で、全てを部族内で自己完結できる種族であるため、森の中で純血を保ち、外部との干渉を絶って静かに生活して来た。
だが、魔王によって世界中が混乱した際に勃発した先の大戦で領土を拡張したジュエール王国は、エルフ族をも制圧した。
単体では人よりエルフの方が遥かに強いはずだが、ジュエール軍の圧倒的な兵力で進軍し、エルフたちは兵たちが集落に現れると、何の抵抗もなく従い、忠誠を誓った。
その際、王国は忠誠の証として無理やり族長の娘を差し出させた。
それで王宮へ来たのがサイだったのだ。
サイはずっと下級メイド扱いで下働きをさせられていたのだが、当時強い女騎士になれそうな少女を探していたエメフィーが騎士団を創る際、入らないかと誘われ、エルフという特性を活かせる弓で貢献し、弓隊隊長に抜擢されたのだ。
サイは実質的に人質であり、王宮内ではエルフとして差別されて来た自分を拾ってくれ、自分の実力を認めてくれ、隊「長」にまでしてくれたエメフィーに感謝し、多大な忠誠を誓っているのだが、それは、エメフィーには大仰過ぎて、困っている。
自分は使える戦力を見つけただけに過ぎない、だから、感謝するのはこちらの方だと思っている。
だから、いつも会うと親しみを込めてからかったりボディタッチしたりするのだが、向こうはその気がないため、虐めているように見えてしまう。
今日はさすがにやり過ぎたかな、とは思ったが、流石に全く変わらない態度に多少イラっと来たのでしかたがない。
子供の頃から一緒にいるシェラやマエラのようにはなれないとは思っているが、近い関係にはなりたいと考えているのだ。
さすがに種族まで違う相手に、今日明日親友になることは難しい。
だから、時間をかけて親しくなっていくしかない。
そして、エメフィーは最後の部隊に行くことにした。




