第55話 誰か、いた。
その後も、多少の攻撃はあったものの、あそこまでの大規模な攻撃もなく、多少怪我人は出たが、アメランが治療したため、何事もなく魔姫城へたどり着いた。
魔姫城は堀も城壁もない。
ただ、山の頂上を削って建てたから辿りつくのに困難というだけの場所にある城だ。
軍隊に攻められることなど考えられていないのだろう。
「うーん、思ったより簡単に入れちゃったけど……」
確かに襲撃もあったが、それにしてもあっさり入城出来たことに戸惑いを隠せない。
「それに、ここは多分迎賓の間だろうけど……誰もいないね?」
「そうですね~。誰も来ないなんて失礼です~」
「いや、アメラン、僕たちお客さまじゃないからね?」
騎士団全員が余裕で入れるほどの広さの大きな間。
ここは魔姫の居住であり、決戦の場だ。
にもかかわらず、敵の一人も現れない。
柱にキャンドルが揺れているあたり、歓迎しているようにも思える。
「それほどまでに、余裕があるという事ですね……」
この先に待ち受けているのは、絶望なのだろうか?
「マエラ、ここは精鋭で行った方がいいよね?」
エメフィーは騎士団を、魔姫を倒すための集団と位置付けて創設し育てて来た。
とはいえ、彼女たちの目的は、現在では「エメフィーを魔姫の元に連れて行くこと」であるため、もうこれで目的は達成されているのだ。
この先にも強敵はいるだろうが、城内の限られた空間内での戦闘となるため、大人数は逆に足手まといだ。
「そうですね。全隊、隊長のみ殿下に続け!」
「はっ!」
「お~」
「はいですぅ」
サイ以外しまりのない声。
だが、それは仕方がない、何しろ彼女たちがそれぞれの隊で最も尊敬され、最も強い者たちなのだから。
「じゃあ行く……シェラ、アメラン、甘えるのはなしで」
「え~」
「でもですぅ……」
「そんな目で見られても。ここは魔姫の城で、僕たちはこれから命を賭けて魔姫を倒しに行くんだよ」
しょんぼりする二人を軽く叱って、先へ進む。
「魔姫はどこにいるんだろう」
「おそらく上であったと思われます」
「そっか、そう言えばマエラは昔──いや、何でもない」
気を使う必要はない、と言われるだろうが、謝った。
「別に構いません。そのおかげで殿下のお役に立てるのですから」
長い階段を上ると、また大きな広間があった。そこは恐らく謁見の間と思われる構造になっている。
とはいえ、そこに主人たる魔姫はいない。
「やあ」
代わりにそこにいたのは、一人の男性だった。
痩せた身体に、黒を基調とした衣服を着ている。




