第53話 魔法隊と弓隊の活躍
「も、もうちょっと下がろう……!」
最前線で見ていたエメフィーは、馬を翻して後退する。
炎が近すぎて熱かったのだ。
やがてそれぞれの炎は全てアメランの炎に吸収され、巨大な炎の球を形成した。
それはアメランの上で、ふわふわと浮いている。
他の子たちはきゃーきゃー言いながら逃げてくる。
おそらく熱かったのだろう。
一人残ったアメランは、頭上の熱球を、更に大きく育てている。
熱風がこちらにも吹いて来て、かなり下がったエメフィーもまだ熱かった。
「いけぇぇぇぇっ!」
アメランはその巨大な球を投げるように腕を前に振る。
するとその炎の球は、ふわりふわりゆっくりと、獣人たちの方に下りて行く。
昨日、サイの高速戦を見た後だと拍子抜けするほどの緩慢さだ。
それが、獣人たちの中心部分の地面に落ちるその瞬間。
「っ──────!」
炎が、あの巨大な炎が弾けた。
遠く離れたこちらの髪が乱れるほどの、爆風。
目の前の全てが炎に包まれたように、丘の下の全てが燃焼の最中にあった。
「エメさま~、熱かったです~」
絶句するエメフィーに、ここぞとばかりに甘えてくるアメラン。
馬に飛び上がって来たので呆然としつつも抱え上げてやり、片手で抱きながら、頭を撫でてやる。
だが、その一連の行動は半ば無意識で、まだ丘の下を見て呆然としていた。
「槍剣隊、生き残りの確認と掃討!」
「あ……みんな、あたしについて来てです!」
マエラの号令に、シェラが慌てて指示を出す。
あの中で生き残りがいるとも思えないが、相手は魔姫の配下の魔物だ、どんな強さかもわからない。
シェラたち槍剣隊が降りて行くのを見守りつつ、エメフィーは腕の中にいる女の子があれをやったのだと思うと、信じられない気持だった。
そう言えば、普段は忘れがちだが、この子の母親は、赤の魔女だった。
この子にも信じられないほどの魔力と魔法に関する才能があるのだろう。
「本当、君をあの時連れてきて良かったよ」
「えへへ~。おやすみなさ~い」
「いや、ちょっと、寝ないで? まだ戦闘中だから!」
「敵襲! 上空からハーピー多数!」
サイの声が響きわたる。
「ほら、敵が来たから。アメランは休んでていいから。弓隊にだけは僕が指示しないと──」
「弓隊、射撃を!」
「え?」
マエラの声で、サイ達が一斉に弓を構える。
参謀兼戦法長が指示を出し、隊長がそれに従う。
そんな当たり前の光景だが、エメフィーは妙に違和感を覚えた。
昨日までマエラは、弓隊など存在していないかのように振る舞っていた。
そう言えば朝もサイに話しかけたりしていたようだ。
魔の眼の話はあれから誰もしなくなっているが、あの関係で考えを変えたのだろうか?
ハーピーたちは昨日とは違ってエメフィーの元に一斉に降り立とうとしているが、それを弓隊の全員で撃って倒している。
昨日はサイ以外は誰も倒せなかったが、今日は次々と倒している。
「どうして……?」
よく見ると、サイは別として他の隊員は、二、三人のグループで同じハーピーを撃っている。
「……なるほど、動く的と動かない的か」
弓隊と一口に言っても、弓の扱いに長けた者から、まだそこまでの腕でもない者もいる。
動く的に対応できる者と、まだ止まった的にしか当てられない者もいて、その二人を同じハーピーを的にさせれば、ハーピーの変則的な動きにも対応できる。
ハーピーは動いているように見えて、実はその軌道を全く変えていない。
だから、素直に軌道を狙えば当たったのだ。
だが、それは、「動きに応じて矢を射かけられる」前提であって、ただ狙っても避けられるだけだ。
変則的な動きで矢を射った瞬間、元の軌道に戻る。
だから、サイは矢を二本用意して囮の一本目を避けた直後のハーピーを二本目で撃ったのだ。
サイがそれを隊員に伝えたのだろう。
「にしても、あのサイがそんな事を提案したのかな?」
サイは卓越した技術はあるが、基本的に指導が下手である。
そもそも、エルフという自分に負い目があるため叱ることもなかなかしないのだ。
この短期間で、サイから情報を聞き、それを有効な作戦に作り替えたのは誰だ?
副隊長の子は、確かに指導は出来るしまとめているが、作戦を考案出来る子ではなかったはずだ。
一体どう言うことだろう?




