第44話 忠臣中の忠臣の赤い瞳
「王子の存在なら子供の頃から知ってたにゃ。この方法を思いついたところだから実験のためにあえて放置して観察してたにゃ。まだまだ問題ないと思ったから、今日まで放っておいたにゃ」
「観察? ですが、あの王宮に魔物などいないはず──」
マエラはちらり、とサイを見るが、そもそもサイはエメフィーが男だと知らなかったはずだ。
「魔物はいないが、魔の眼を持つ者はいたにゃ。その目を通じて観察してたにゃ!」
「魔の……眼?」
王宮を隅から隅まで知っているマエラをしても、そのような存在は聞いたことがない。
もし、いたとするなら、何らかの対策は取ったはずだ。
「もう十年以上になるにゃ。王子に近づくと思われる子供を攫って、魔の眼を埋め込んだのは」
「……っ!」
子供のころ、魔姫に攫われた者。
そして、その後返されて、エメフィーの近くにいて全てを知っていた者。
マエラの明晰な頭脳は、一瞬でその人物を特定した。
「そ……れは……まさか……」
「マエラースン、お前だにゃー! お前の右目は魔の眼だにゃー!」
「…………っ!」
それは、衝撃的な事実だった。
マエラにも、ずっと一緒にいたエメフィーやシェラにも。
そして、彼女を戦法長として信頼しきっていた騎士団の全員にも。
騎士団の頭脳であり、その作戦の全てを計画していたマエラの右目が魔姫の植え付けたものである、という事実。
つまり、彼女の視界は全て魔姫も見ていた、ということだ。
「これでもう、同じような者が残っていたとしても何も怖くないにゃ! お前らは魔姫の兵隊として雇ってやってもいいにゃ! にゃっはっはっはっ!」
笑い声とともに、魔姫の姿が消える。
しん、とする周囲には木々のざわめく音だけが流れて行った。
皆、別に、マエラの目が魔の眼だったことがショックなのではない。
そんなことは実際どうでもよく、魔姫にばれた事もいつかばれると思っていたから想定内のことだ。
問題は、エメフィー王子のキスが、通用しないということだ。
この出陣は王子の存在が魔姫側にばれて、殺される前に王子のキスを武器として速攻で倒そう、というのが今回の出陣だったはずだ。
だが、それが通用しない、となると、この先に待ち受けるものは死しかないのではないだろうか。
そう思うと、誰もが何も言えなくなる。
「でもさ」
そんな彼女たちに向けて、口を開いたのは、エメフィーだった。
「元々僕たちは女の子だけで魔姫を倒すための騎士団だったんだから関係ないよね」
「え……?」
その一言で、彼女たちは自分たちの設立理由を思い出す。
そう言えば、王子がいない、男兵士が魅了される、だから、女だけで騎士団を作ろう、という目的だったはずだ。
だったら今の進軍はその成果であり、何も間違ってはいない。
「それに、あれって、結局これから魔姫が作る魔物ってだけだよね? 魔姫自身は僕のキスが通用するから、ああやって警告に来たんだよね、怖いから」
魔姫が怖がって警告に来た。
その言い分はあまりにもこちらに有利な言葉だ。
だが、確かにわざわざ言いに来る必要など、まるでないはずだ。
城で待っていて、城内に入る前に倒せばいい。
わざわざ出向いて警告に来たということは、来られては困るからだ。
「だから、僕は行軍を続ける! ついてきたい子は僕に続け!」
そう言って、馬に乗り、走り始める。
「おー!」
「おぉぉぉぉぉぉ!」
少女たちは各々馬に乗ってそれに続いた。
「はわわ、それは、あたしの役目ですぅ!」
シェラが涙目で追いかける。
一人、取り残されたマエラは、よろよろと馬に乗った。




