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第33話 忠臣達の確執

「疲れました~」


 行軍を始めて、日が昇り切り、徐々に落ち始めたころ、エメフィーの隣を移動しているアメランが、ぼやき始めた。

 一日中走り回っているエメフィーに疲れはないが、基本体力訓練をしていないアメラン達魔法隊は疲れが来ているんだろう。


 後ろを見ても、魔法隊の黒い帽子がだいたい前のめりに倒れている。

 一旦休憩にした方がいいか、などと考えて、そう言えば、マエラはどこにいるんだろう? と、探したところ、魔法隊の後ろにいた。

 魔法隊の後ろは弓隊であるが、その先頭と並んでいた。


 隣は、サイではなかった。


 弓隊副隊長の少女がマエラの隣にいて、疲れの表情が見える、マエラを気遣っていた。


 それならサイはどこに? そう考えてもっと後ろを見ると、一番後ろにいた。


「なんでそうなってるの!?」

「ほぇ~?」



 イラつき気味にエメフィーがつぶやくと、隣にいたアメランがけだるそうに反応する。


「あ、ごめん、アメランには関係ないことだよ。ちょっと後ろに行ってくる」

「は~い、いってらっしゃ~い」



 エメフィーは隊列を離れ、後方に向かう。


「マエラ、どうしてサイを後ろに追いやっているんだよ?」


 弓隊の先頭にいる、マエラを、少し責めるようにそう言った。


「何の話ですか?」

「いや、だから、どうしてサイが後ろにいて、君がここにいるんだよってことだけどさ」



 各隊先頭には隊長、最後尾には副隊長という隊列のはずが、ここだけは逆転している。

 どうせ、サイが嫌いなマエラがここの位置で行軍するにあたって邪魔なサイを理由をつけて後ろに追いやったのだろう。


「それは、あのエルフに聞いてください。殿下が決めた隊列を破ったのはあれですから」


 マエラは、部下にも丁寧語を使い、基本的には誰にでも優しい性格をしているが、サイだけはそうではない。


 今も「エルフ」「あれ」など、名前すら呼ばない。


「マエラが追いやったんじゃないの?」

「殿下、何度も申しますが、私は別に彼女を嫌いではありません」


「いや、でも君は──」

「私は、エルフという種族を信用していないだけです。隊列を乱して後ろにいるということは、何かをするのではないかと、ここにいるだけです」

「……そっか。もうすぐ休憩するから、もう少し頑張ってね?」



 そう言うとエメフィーは更に隊列の後ろに向かう。

 マエラがサイを嫌うのは、エメフィーがサイを連れてきたその時からだから、もう仕方がない。


 何度もそう言ったが返事はさっきと同じ。

 「別に彼女のことは好きでも嫌いでもありません。ただ、エルフは信用していません」と言うだけだ。


 エルフを信用できない、と言われても、それに反論できるほど、エメフィーはエルフを知らない。

 ただ、個人としてサイを信頼しているだけだ。

 だから、それ以上は何も言えない。


「サイ、大丈夫?」

「エメフィー殿下! 騎上から失礼します。最後尾までお越しいただきありがというございます」


「いや、そんなのはいいよ。もう行軍中なんだからさ。それより、どうして君は最後尾にいるの?」

「はっ、後方から魔姫(まき)の攻撃があった場合、殿下の盾になれるようにです!」

「……そっか」



 サイが最後尾にいたのは、サイの判断であり、マエラは関係なかった。

 マエラは後で謝るとしてエメフィーは、サイにも言わなければならないことがあった。


「サイ、僕は君を盾にするために、騎士団に誘ったわけじゃないよ」

「いえ、私は、エメフィー殿下のために死ぬつもりで、騎士団に入りました」


「うん……そんなことは考えたくもないけど、もしかすると、君に死んでもらうこともあるかも知れない。騎士団はそういうところだから、仕方がないんだけどさ。君はここにいる多くの子たちよりも強いんだ。出来れば君には、僕を助けて欲しい」

「殿下、私の言う盾というのは──」



「て、敵襲! 前方から人獣(ビストレス)一頭!」



 先頭にいるシェラの、叫ぶような声。

 いつもののんびりとした明るい声ではないことから、前方はかなりの緊張状態というのは分る。


「! 始まってる?」


 先頭はここからでは見えない。

 だが、鉄のぶつかる音や悲鳴が聞こえてくることから、戦いが始まっていることは分かる。


「ごめん、行かないと」

「お待ちください」



 前へ走って行こうとするエメフィーを、サイが止める。


「殿下をお守りするのが我々のお役目です。私が行きましょう」

「だから、君は僕の盾じゃないってば!」

「いいえ」



 常に仏頂面、時々半泣きの表情を見ることがあるが、笑顔など見せたことのないサイ。



「盾は、敵に殺されるだけの存在ではありませんよ?」



 振り返るその表情は、エメフィーも見たことのない、笑顔だった。


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