第29話 王女が王子と分かっても誰も去らない
「だから、すぐに魔姫を討ちに行く。僕が男と分かった上で、それでもついて来てくれるなら、明後日、準備して集まって欲しい。いなくなっても、僕は何も思わない。いや、いなくなった人を僕が裏切ったのかと申し訳なく思うだけだから……」
翌日、エメフィーによる演説が行われ、これまでの事実全てを全員に伝えた。
それぞれの心の内は分からないが、おそらくそこまでの驚きはなかったようだ。
何しろ、これまでのエメフィーの行動、そして容姿は、確かに王女というよりも王子と言った方が納得できたからだ。
「今日はこれで解散。また会える人は明後日に会おう……!」
エメフィーがそう叫ぶが、誰もがすぐには解散せず、周囲の者とざわざわと話し合っていた。
一体何人が残るだろう?
主要な人物、例えば隊長達は残ってくれるだろうか?
「大丈夫です」
不安げに見ていたエメフィーにマエラが笑う。
「どうしてそう言えるんだよ?」
「私にはそれが見えるからです」
マエラがあまりにも自信たっぷりにそう言った。
「まあ、マエラが言うならそうなんだろうけど……どれくらい抜けるかによっては、作戦の見直しも──」
「殿下、大丈夫ですから」
そう言って、マエラがエメフィーの腕を抱く。
振り解こうと思ったが、それはそれでマエラに失礼だと思い、我慢する。
「分かったよ、マエラを、みんなを信じよう」
エメフィーはこれ以上不安に思うのをやめた。
翌々日、魔姫討伐を開始する当日。
いつもの広場に来ると、そこには騎士団の全員が揃っていた。
そう、誰一人欠けることなく全員が揃ったのだ。
「みんな……」
エメフィーは、騎士団全員の団結に感動し、少しでも臆病者がいると思っていたことを恥じるくらいだった。
だが、マエラは最初からそうなることは分かっていた。
三人の隊長が抜けることはまずない。
シェラは最初から男であることを知っていたし、そもそも、モルディーン家の眷属であるため、万が一彼女が抜けたいと思っても、周囲が抜けたせてくれないだろう。
サイに関しては見ていれば分かるように、エメフィーへの忠誠心だけは異様に高い。
彼女が人間を裏切ることがあっても、エメフィーを裏切ることはない、と分析している。
前の隊長会議ではそれを更に強調するために、あえてマエラが嫌われ役になり、エメフィーに気を遣わせ更に忠誠心を高めさせた。
アメランに関しては分かりやすい。
彼女が研究資金を豊富に出してくれるエメフィーを手放すわけがない。
これは隊長会議の時点で分かっていた。
そして、それ以外の団員達。
彼女たちがどうして残る決意をしたのか。
貴族の子女たち、彼女たちはただ、親や兄の駒になるために生まれ、生きていく存在だった。
何をしても「誰の娘」という地位しかなく、そして、その地位に見合う相手を親に宛がわれ、結婚して、今度は「誰の妻」になるだけだった。
そんな彼女たちに努力すればこの国を守れる、そして、英雄になれる、という希望を与えたのがこの騎士団なのだ。
だから、彼女たちは魔姫を討伐に行く、と言われれば俄然やる気を発揮することだろう。
エメフィーが男だったという事実も、彼女たちからすれば、もしかすると、目に留まって王妃になれるかも知れない、などと夢を見ることも出来るから、どちらかと言えば歓迎だ。
そして、庶民の少女達。
これは、非常に簡単だ。
騎士団の待遇は、彼女たちからすれば極めて高く、給金、与えられる用具、施設まで、まるで夢のような待遇なのだ。
入団してまず教えてもらうのは馬の乗り方。
各自自分の馬を与えられ、乗りこなせるようになるまで練習させてもらえる。
そして、自分の馬がもらえる、というのは彼女たちにとっては大きな喜びだろう。
そんな待遇を自ら失うわけもない。
そして、彼女たちも女の子である。
凛々しかった王女様が、実は王子だった、となればその近くで彼を見ていたい、と思うのは当然ではある。
だから、誰も欠けることもない、と分かっていた。




