第28話 モルディーン一族とエルフ
長く戦乱の世が続き、武の者が持て囃され、次々に昇格していった時代でも、モルディーン家は代々知の者として繁栄してきた。
彼らの一族は戦乱の世にも戦略戦術を立てる軍師として生き、そして、功績を挙げて来たのだ。
それまで王子がハーレムを築く目的にしか使われていなかった王族の能力を戦争に活かしたのは彼らだった。
それにより国は領土を格段に増やし、彼らの地位は確固たるものになっていった。
そしてその知の力は、平静の世になっても受け継がれてきた。
代々宰相といえばモルディーン家、ということは当たり前となっており、そして、それを常に確固たるものにすることを代々当主は義務付けられている。
現当主もその努力を欠かさなかった。
女王が身籠ったと知れば、正妻はもちろん、愛人全てと夜を重ねた。
王の子供と同世代同性の子供を作るためだ。
その結果王子が生まれたが、同年、正妻と間に三男、愛人との間に次女が生まれ、三男を王子の話し相手に差し出そうとしたが、王子は魔姫に攫われた。
その後、再び女王が懐妊し今度は王女を生んだので、次女が差し出されることになった。
次女は愛人、これも政略で婚姻した正妻とは違い、知に長けた女性で、魔法協会秘蔵の天才魔法少女と言われた女性との間の子だった。
彼女は数多くの兄弟の中で最も知に長けており、特に政治力に関しては、このまま勉強すれば当主をも凌駕する知能を持っていた。
当主が何度も彼女が男でなかったことを何度も悔やんだほどだ。
彼女の名前はマエラースン。
知と美を兼ね備えた少女に育った。
そんな彼女が父から何度も言われてきたこと、それは「エルフ族は何かを企んでいる」ということだ。
ジュエール王国がエルフの集落を攻めようとした際、モルディーン家の時の当主は反対した。
何しろ相手は人を軽く馬鹿に出来るほどの能力を持つ妖精だ。
走る速度は森の中では馬よりも速く、卓越した聴力視力、そして手先の器用さは、小柄で力がないという欠点を補って余りある。
更に非常に長寿で、代替わりが少ないから、世代交代で技術が消えることもほとんどない。
そんな彼らの森に攻め入って、まともに帰ってこれるわけがない。
だが、時の国王がこの一体全てを領土とする事が国是であると言うので、あらゆる事態を想定して作戦を立てた上、八方から攻め入った。
だが、攻め入ってみれば、族長が無条件降伏をした。
まともにやり合ったら、ジュエール王国にも大きな被害が出たはずの戦いを、最初から選択しなかった。
そんなはずがない、むしろジュエール王国が逆に攻め滅ぼされかねないほどの力のある種族が、無条件降伏だ。
そして、従えた彼らの能力の卓越したものを見るにつけ、その思いはより強くなっていった。
エルフ族は、ジュエール王国の弱点を見つけ、油断しているところを攻撃しようとしている。
それはほぼ確信めいた結論であり、当主はすぐに人質として族長の娘を王宮に差し出させた。
それでも絶対に油断するな。
それはモルディーン家に代々伝わる教えだった。
そしてその教えは、マエラースンも忠実に持っていた。




