第27話 会議は手のひらの上に
もちろんマエラの言うことはよく分かる。
エメフィーがこの騎士団を創設したのは、魔姫を倒すための戦力としてだ。
倒す、倒そうとするということは、つまり倒されるリスクもあり、つまり死ぬ覚悟も当然必要なのだ。
エメフィーはもちろんその覚悟を持って訓練しているし、ここにいる隊長たちも、アメランは多少疑わしいが、覚悟は出来ていることだろう。
だが、今騎士団には多くの、様々な身分の者もいる。
エメフィーの主義により、あまり地位を意識せずに和気あいあいと訓練をしている。
彼女たちに、明日死ぬかも知れない戦いに行く、と言われて、その覚悟があるだろうか?
「ですが、私の見る限り、騎士団は戦力としては有る程度は出来上がっていると思います。槍剣隊は、殿下もよく参加されていますし、シェラも含めて精鋭が教えた精鋭軍団になりつつあります。魔法隊も、アメランが開発する魔法をそれぞれが習得し、前衛としても後方支援としても十分な戦力になりえる状態です」
「うん、弓隊もサイが頑張ってるしね」
マエラが弓隊を無視したので、エメフィーが付け足した。
「でも、僕が言いたいのは、戦力じゃなく、みんなの覚悟なんだ。もちろんあるべきだって思うんだけどさ」
何しろ、全員、騎士団に入る前はただの訓練もしたことのない女の子だ。
死の恐怖なんて教わることも考えたこともない子もいるだろう。
死ぬのが怖くない人間はそもそもいないだろうし、自分が死ぬという想像をしたこともない子もいるかもしれない。
たとえそれが、この団の本来の目的であるといっても。
「殿下は本当にお優しいですね。そのような者たちのことまで気に掛けるなんて」
マエラは再び身を寄せてくる。
今度はいつもの微笑ましいエメフィーに対するものだ。
「でしたら、こうしましょうか。全員を集めて、殿下が王子だったということを知らせる必要があります。その際、魔姫討伐に向かうことを告げ『自分は王女だからついてきたつもりであり、王子と分かったなら話が違う、と思ったなら去ってもいい』と判断を委ねるのです。そうすれば、死ぬのが怖い者も、それに紛れて『殿下に裏切られた』という理由で離れることが出来ます」
マエラの提案。
確かに、エメフィーは誠意ある人間であるから、王女の名のもとに集めたエメフィー女騎士団の団長が王子だった、となれば全員に直接それを話して謝罪することだろう。
そして、それで去るものがいるなら責めることなく、次の働き口を探すことまで考えるかも知れない。
そこまで想定した上で、もし団に臆病者がいるならその時に紛れればいい、という提案。
「魔姫と戦いに行くから去りたい者は去りなさい」と言われれば、そもそもこの騎士団は最初から魔姫を討つために創設されたことを皆知っているから、じゃあお前は今まで何のために在籍したのだ、と言われることを嫌い、名乗り出る者はいないだろう。
だが、「王女が実は王子だった」ということに裏切られたと感じるなら、まだ正当な筋が立つ。
「そうだね、それで行ってみようか」
「分かりました。では明日の朝、広間に全員集めます。そしてあなたたち」
マエラは、そこにいる三人の隊長に向き直る。
「あなたたちも隊長という責任は別に考えてください。今回は同様の理由で去っても構いません。これまで殿下にお付き合いいただいていますが、殿下に直接誘われた、ということは名誉なことではありますが、これからはそれだけではどうしようもありません。殿下は魔姫討伐のための最後の切り札。ですから、私たちは殿下をお守りするために、場合によっては盾になる必要もあります。盾になる覚悟のない人は、遠慮していただきたいと思います」
これは、マエラが前々からシェラには言っていたことである。
騎士団の創設目的、それはエメフィーが常々言っているように、魔姫を倒すためだ。
魔姫はジュエール王国の男性王族の能力をを恐れている。
そして、魔姫の従える魔族達に一般男性は魅了され、裏切られることもある。
男性王族と、それに付き従う、裏切らない騎士、という状態が理想的なのだ。
エメフィーが、「男性王族がいないなら、女の子だけで騎士団を創ろう」という目的で創設しようとしたこの騎士団を、マエラは「裏切らない女の子だけの騎士団を創設する」ことにして女王に進言し、騎士団創設を認められた。
これは、隊長でもシェラだけが知っている事だ。
つまり、今後の方針、とは、エメフィーの方針から、マエラが最初から思い描いていた方針に「転換」するだけなのだ。
「それでは会議はこれで解散。各自、明日の朝に殿下より発表すべきことがある連絡して、集合させておいてください」
「うん、よろしくね?」
「…………」
三人、特にサイとアメランがエメフィーを伺いながらぎこちなく立ち上がる。
エメフィーはいつもなら隊長会議明けに、誰かに軽くタッチして話しかけるので、一応待っているのだ。
「……では~」
何もないのが分かり、去っていくアメラン、そしてサイ。
エメフィーは、これまでやってきた事も、自分が男としてやればまずいことが分かっているので何もしなかった。
「殿下、殿下は態度を変える必要は全くありません。行き過ぎたら、これまで通り私がご注意いたしますから、これまで通りをお続けください」
そうマエラに言われても、変えないわけには行かなかった。




