第26話 少女騎士団は殿下のために死ねます
「ま、まあ、とにかくさ、僕は自分が女の子だと思って君たちにやってたことは、そう簡単に許せることじゃないと思ってるんだ」
「そんなことないですぅ! あたしは、エメさまにおっぱいを揉まれたからこんなに大きくなれたです。身体中触ってもらってたから、こんなに女の子っぽくなったですぅ!」
「いや、だから……ごめんって!」
シェラからも自分のこれまでの行動を具体的に肯定され、居たたまれなくなるエメフィー。
「わ、私も~、エメさまに、おしおきされるのは~、不思議な気持ちになります~」
「……それはなんか、開いちゃ駄目な扉じゃないかな? と、とにかくっ!」
なんだかいつも以上にぽーっとしているアメランに突っ込みつつ、エメフィーは居住まいを正す。
「僕はこれまで、そういう事を楽しいと思ってやってたんだ。みんなにそうすることで、僕は本当に楽しかった。……だけど、今思うとそれは、多分、男の子としての、せ、性欲みたいなものから来たものだったんだと思う」
さっきから恥ずかしいことを思い返して、自分のその時の気持ちまで思い出してみると、おそらく自分は、十六歳の男子として、本来なら当たり前に持っている、女の子と触れ合いたい、という気持ちを女同士の気安さで出していたのだろう、と考えた。
そして、それは誰にも否定出来ない。
エメフィーは、自覚のないうちに自分の性欲を、身近にいた女の子にぶつけてしまっていたのだ。
「一国の王子、それもジュエール王国のような大国の王子ともなれば、あの騎士団全員と関係を持っても咎められることはありません。むしろ血を残す努力を怠っていないと褒め称えられることでしょう」
「そんなことしないから! ……いや、もし僕がそういうことをするにしても、それは僕が自分は王子だと分かってて、相手も僕が王子だと分かっている必要はあると思うんだ。相手が同性の王女だと気を許したら実は王子だった、じゃ、騙してることになるからさ」
エメフィーは元来とても誠意をある人間だ。
だからこそ、隊長たちも気安すぎるエメフィーに心から忠誠を誓っているし、団員達も彼女、いや彼の誠意を垣間見て尊敬していた。
そんなエメフィーが人を騙すような自分のこれまでのやり方を許すわけがなかった。
「殿下、私は前から殿下が殿方であることは存じておりましたし、その上で何の不快も感じませんでした」
マエラが口を開く。
「もし、今後も性欲の解消が必要でしたら、私に仰ってください。私に性欲の全てをぶつけていただいて構いません。何しろ私は──殿下の婚約者なのですから」
最後の一言を、隣に座るエメフィーの耳元で囁くように言って寄り添うマエラ。
「いやいや! 絶対……なるべく我慢するけどさ!」
マエラは一応婚約者ではある。
それに昨日まで女同士の親友だと思って裸でくっつきあっていた仲でもある。
とはいえ、男女と分かった以上、十六と十七の男女がそこまでくっつきあってしまうのはどうだろう、いやだけど、婚約者だし、昨日までくっついていたし、などと困惑し、結局は何も出来なかった。
これまで、大抵はエメフィーがマエラに甘えたり抱き着いたりしていたし、マエラが抱き着いてくるときも、どちらかというと、エメフィーを諭すような時が多かった。
少なくとも今のように、一人の少女として、男性であるエメフィーに甘えるようにくっついてくることはなかった。
どちらかというと頼れるお姉さん、という感じで甘えられると言うよりも甘える側だったマエラに甘えられると、妙に何かがこみ上げてくる気持ちがある。
これが男性特有の征服感であると、エメフィーが知るのはもう少し先になる。
「マエラ、人前だから、やめようか。君と僕は、参謀と団長──王太子だからさ」
「分かりました。ではまた後ほど」
マエラはあっさり離れる。
さっきまで甘えて来たのが、いつもの揶揄いの一つだったのか、とすら思えてしまった。
マエラの感情は、これまでもよく分からなかったし、自分が意識し過ぎなのかな、と思うことにした。
「さて、これからのエメフィー女騎士団についてですが、もちろん継続いたします。これに異論のある方はおられますか?」
特に誰も反論はない。
皆、逆に今更解散されても困るからだ。
「では、継続を前提の話し合いになりますが、おそらく殿下は魔姫に討って出るのは時期尚早だと思われているのではないでしょうか?」
「そうだね、みんな頑張ってくれてるとは思うけど、もう少しかかるかなと思ってる」
ここにいる隊長は、全員が神がかって強く、男性騎士を相手にしても、いやそれどころか、一人で騎士団一つを相手にしても負けることはないくらいだが、団員全員がそういうわけではない。
マエラの才能を見抜く目は確かで、それぞれの隊には才能溢れる人材が揃ってはいるが、まだその才能を開花させていない者が半分以上いるのだ。
「確かに、各隊未熟な者が一定数おります。特に弓隊は半数が実践に耐えられないレベルだと聞いております」
ここでも、事実とはいえ、弓隊、そしてそれをまとめるサイをちくりと責めるマエラ。
「ですが、魔姫が王子である殿下の存在に気づくのは、そう先の話ではないかと思います。そうなるとどう出るか、見当が付きません。ですから、こちらから討って出た方がよろしいかと思います」
「でも、現段階で実践となると、死人も出るかもしれないよ?」
「騎士である以上、死を覚悟するのは当然です。未熟だからと死から逃れよう考えながら騎士団にいる者は即刻抜けるべきではないでしょうか」
「そうなんだけど……うーん……」




