第25話 アメランは王子のおちんちんが見たい
「あ、あのー……」
何とも言えない空気の中、アメランが遠慮がちに口を開く。
「どうしたの、アメラン?」
「サイラさんがエルフだから教えて貰えなかったのは分かりますけど、私はどうしてですか?」
アメランの言うサイラはエメフィーの言うサイの事だ。
エメフィーからすれば、マエラ、シェラ、と響きが似ているからサイラーネを略してサイラ、とは言わないが、アメランは関係なく、マエラさん、シェラさん、サイラさん、と呼んでいる。
「だから、先程からも言ってますように、国家の極秘事項なのです。殿下の騎士団の隊長というだけで教えられるわけがないでしょう」
さっきのいらだちも残っているのだろう、マエラが少し強めに答える。
「もしかして、エメさま専用浴場に入ろうとしたけど入れて貰えなかったものそのせいですか~?」
「……あなた、入ろうとしたのですか?」
「だって、エメさまと隊長用って書いてあったから」
そう言えばそうだ。
エメフィーを欺くために専用浴場は隊長以上が入る湯になっていたはずだ。
だが、実際はエメフィーの秘密を知っている者限定だったため、入れるはずもない。
「あれは殿下に怪しまれないようにそうしていただけです。同じ湯に入れたのは、殿下の婚約者であり、絶対に裏切らない者だけです」
「でも……一緒に入りたかった……」
拗ねるような口調のアメラン。
そんなところが可愛いなあ、とエメフィーは思ってしまう。
「正直なところ、あなたも婚約者にする、という案は私にもありました。確かにあなたの血筋は貴族ではありませんが、私個人はそれに類すると考えております。あなたの母君は王国に非協力的ですが、あなたは王国のために貢献して貰っていますし、まあ、殿下の婚約者は多い方がいいと考え、一度は女王陛下への進言を考えたこともあります」
誇り高きエルフ族族長の娘をよそに、マエラがアメランを褒める。
「で、でしたら~」
「では聞きますが、あなたは殿下と湯を共にしたとして、まずは何をしましたか?」
「そ、それはもちろん、殿下のおちんちんを凝視して、調べて、研究に役立てました」
多少夢見がちな表情で、ちらり、とエメフィーを見ながら語るアメラン。
「一体何の研究をするつもりですか! 一国の王太子の身体を!」
「ひぃっ!」
「……ですから、あなたの血は非常に貴重ですが、進言をしませんでした」
冷徹に結論を語るマエラ。
「で、ですがぁ~」
「もう終わった事です。今後もありません。」
「……えぅ」
半泣きのアメランはそのまま机に伏せる。
エメフィーはどうしてマエラが自分の婚約者を決めているのか不思議でならなかったが、マエラが駄目というなら駄目なのだろう、とただ思うことにした。
エメフィー自身、自分が女の子と付き合うとか結婚するとか、まだ想像がつかないので、そこに意見を挟めないのだ。
アメラン・ドッズ。
彼女の母親は、人嫌いで誰をも寄せ付けず、城から離れた巨大な盆地の谷底に一人居を構えている大魔法使いだった。
その名は赤の魔女ナーレン・ドッズ。
伝説として伝えられている存在だった。
その盆地自体、ナーレン本人が人を寄せ付けないために陥没させたとまで言われている。
当時エメフィーは国内の魔法協会に騎士団の魔法隊を指揮し、指導出来る人材が欲しいと考え、魔法協会に若い優秀な女の子を提供して欲しいと依頼していた。
だが、協会からすれば、王女のお遊びに数少ない若くて優秀な魔法使いは出せないと、遠回しに断って来た。
そんな折、人嫌いの赤の魔女に娘がいるという噂を、当時採用を始めた町民の娘から聞き、エメフィーは真偽を確かめずに盆地まで馬を走らせた。
険しい谷を越え、彼女の住む家に近づこうとすると、魔法で何度も脅されたが、それでも突き進み、魔女の家にたどり着いた。
そして、そこで魔女と、その娘アメランをその目で確認し、そして、うちの騎士団に入らないか、と頼んだのだ。
アメランは快諾し、エメフィーに連れられ、騎士団に入った。
そうなると魔法協会も態度を変える。
あの伝説の魔女の娘が騎士団に入団した、ということは、そこに混じれば新たな魔法の源流を魔法協会内に取り込むことが出来る可能性もある。
だから手の平を返し、若手魔法使い育成のためにと、少女魔導師を何人も送り込んで来た。
彼女たちと、他にも魔法の素質がありそうな少女を集め、魔法隊が結成された。
アメランの研究とその成果は凄まじいものがあり、一般の魔法使いが一生をかけて何十年も研究するような内容を一月二月で達成してしまう。
普段のんびりした話し方で、しかも言っている内容も色恋が多く、そこらを歩いている小娘のように思えるが、その頭脳は、天才的である。
ただ、その研究は異様に金を食うし、アメランは自由奔放なので、きちんと手綱を握らないと、エメフィーの意図しない研究に時間と大金と人員を投じてしまうこともある。
更に高確率でサボる。
たまの息抜きなら問題はないが、放っておくといつまでも何もしないこともある。
だから、エメフィーやあとマエラが頻繁に訪れることになる。
会計を一手に担っているのがマエラであるため、アメランはマエラには逆らわない。




