第19話 衝撃の事実を知る
「エメフィー王太子、まずは誕生日おめでとうございます。あなたの今後の活躍に期待いたします」
参列者からは拍手が起こり、エメフィーは、さらに頭を下げる。
「この国の王族は、十六歳になりますと、大人とみなされます。これは我が国の男性王族は、十六になるとある能力を顕現する事が起源とされます。その能力は、口づけをした異性、つまり女性を惚れさせ、自分の意のままに操ることが出来る能力です。これは先の大戦の際、大いに役立ち、我が国は大きく発展しました」
「へえ……」
エメフィーは儀式の最中に思わず声を上げてしまった。
確かにそんな能力があったら、敵はたまったものではないだろう。
基本、エメフィー女騎士団のような特殊な存在を除き、戦争は男が戦う事が一般的だが、かと言って女の活躍が全くないというわけでもない。
信頼の厚いメイドに毒を盛らせたり、恋人に寝首を掻かせたりする事も出来る。
そして、その能力は確かに魔姫がもっとも恐れる能力だ。
魔姫の配下は、女の魔物が多く、幹部は大半女で構成されている。
その強い幹部達がキスで寝返ったらどうなるか。
そして、魔姫自身がキスをされたらどうなるか。
魔姫が、能力を恐れて攫って行くのも仕方がない。
「エメフィー王太子、あなたには本当は兄がおりました」
「……え?」
それは、エメフィーにとって初耳だった。
「もちろん、私たちは魔姫の存在を知っていて、だから私たちは、彼を守ろうと必死になり、城から一歩も出さず、何十もの衛兵で囲み、起きているときも寝ているときも、一人にはしませんでした。ですが、それでも一月持たず、攫われてしまいました」
「……そうなんだ」
自分の上に兄がいたことを、初めて知ったエメフィーは、おそらく攫われて殺されたであろう兄を想い、悲しい気分になる。
兄がいたなら、今頃自分は妹のララフィーのような可愛く我が儘な女の子だっただろうか。
「それで、私たちは対策を考えました。次に王子が生まれたとき、その子を姫として育てよう、と」
子供が生まれてそれを隠すことは難しい、そう悟った女王たちは、次に、王子が生まれてもそれを隠し、王女が生まれたことにしようと考えた。
なるほど、それなら隠し通せるかもしれない。
だが、それは非常に難しいのではないか? とエメフィーは思った。
何故なら、子供のころはともかく、大人になれば男と女は全く違う生き物になる。
十六と言えばもう大人だ、大人の男を女として騙しきれるだろうか?
「そして、また一人、王子が生まれました」
ああ、そうか。
やはりエメフィーの思った通り、これも失敗したのだ。
何故なら、エメフィーに兄はいない。
最初に連れ去られた兄も、次に生まれたその兄も、知らなかったのだ。
「私たちはその子を女の子として育てました。その子だけではなく周囲にもそう偽って、ほんの一部の信頼できる者以外には教えもしませんでした。その子は自分でも王女と思い込み、すくすくと育っていきました」
育って行った?
いや、エメフィーはそんな事実を知らない。
女王の年齢から考えて、エメフィーが生まれた十六年前を逆算して、一体何年の事を言っているのか?
女王と王配、つまり両親の結婚した年から考えると、一年にも満たない時間でギリギリのところだろう。
もしかすると第一王子の方は、結婚前に妊娠していたのだろうかか?
そうなれば何とか計算が──。
「そして、我々は隠し通したまま、今日十六歳を迎えたのです。こんなに喜ばしいことがあるでしょうか」
「え……?」
頭の中で計算をしていたエメフィーは、女王の言葉を理解するまでに時間がかかった。
王子がいて、それが、今日十六歳を迎えた。
あれ? もしかして自分は双子で、もう一人は姫として育てられてきたのか?
いや、そんな姫は知らない。
ララフィーはどう考えても女の子だし、確実に年下だ。
他に王族なんて誰がいただろうか?
少なくとも、直系はエメフィーとララフィーしかいない。
(……あれ? これ、僕の式典だよね? ここでこんなことを言うのは……あれ?)
「エメフィー・ラルナ・シャルティク王太子、これまであなたを王女として育ててまいりましたが、あなたはこの国で唯一直系王子です。十六歳を迎えた今、あなたの能力は顕現しているはずです。唯一、魔姫に対抗できる希望があなたなのです」
参列者のどよめき。
呆然と立ち尽くす、エメフィー。
「私の息子エメフィー。これまで姫として生活させて申し訳ないと思っています。ですがあなたは魔姫を打倒するという執念を持ち育ってくれました。これからはその、魔姫をも恐れる能力を使い、必ずや魔姫を打倒してください」
女王の話中であるというのに、収まらないどよめき。
立ち尽くす、エメフィー。
ただ、女王が王配を従え、去っていく姿だけを見守っていた。