第18話 儀式の始まり
「それでは、エメフィー・ラルナ・シャルティク第一王女の入場です」
背筋を伸ばして入場する、エメフィー。
会場の参列者からは拍手が起こる。
厳粛な儀式は、静かに始まった。
嫡子であり第一王女であるエメフィーの晴れの舞台。
それは、ただ公人となる儀式というだけではない。
嫡子が公人になる、ということは、王太子としての資格を得るという事であり、つまりは、次期女王である王太子に就任する、ということになる。
だから、参列者も通常の儀式よりもかなり多いし、式も大掛かりだ。
エメフィーの緊張は尋常ではなかったが、ただ、落ちついて予定通り式をこなすだけだ。
その、次代を担うエメフィーの衣装に参列者からはどよめきが漏れる。
その衣装は、女王然とも、王女然ともしていなかった。
それは、本当に十六歳の姫かと疑ってしまう程、凛々しく誂えられていた。
王子とも見紛えるほど、長身スレンダーなエメフィーに似合う衣装。
長髪は流れるままに、白地の上着の上で舞っている。
王女が公式の場で着るような、肩を出して胸を強調するような衣装は、エメフィーの体型には合わない。
それを誰よりも理解してくれているマエラが指示して誂えさせた衣装だ。
スカートではないパンツスタイルは、エメフィーでも珍しいが、確かに長身のエメフィーにはこんな格好はとても映える。
全身白地で誂られたその服は、王女、というよりも長身細身の王子に見えてしまう。
常々女らしくしなさい、と叱る母である女王にはまた小言を言われるんだろうな、とは覚悟していた。
だが、今回はマエラが持ってきてくれたのだ。
彼女が、通常や慣例と異なったことをする際に周囲に話を通さないわけがない。
つまり、女王はエメフィーがこんな格好で登場することを既に知っていると思われる。
それに、万一知らなかった場合でも、これはマエラに悪いが、「マエラが持ってきたものを着ただけ」といういいわけも出来なくもない。
もちろん、そんなことは何度も通用するわけもない、だけど、今日という日は一生に一度しかない。
後でどれだけ叱られても、やってしまったことは仕方がない。
一生に一度だけの自分の日なら、自分らしい衣装で通したい。
何しろ、あのマエラが応援してくれたのだ。
あのいつもお堅い、女王の代わりにエメフィーを叱っているマエラが、この儀式では王女として、淑やかな姫を演じるより、いつものように、騎士として凛と振る舞った方がいい、と。
ジュエール王国第一王女は、姫である前に騎士である。
これからは、騎士として生きていく。
それを、公人として、王太子として、参列者に見せつけてやろう。
マエラがそう言ってくれたことは、本当に嬉しかった。
王族と臣下、特にこれからはその関係が強くなるだろうが、それでも生涯、マエラ、そして、シェラとは親友でいたいと思った。
そして、出来れば騎士団の子たちとも。
参列者から発生したざわめきは、終始凛としているエメフィーの態度に抑えられ、代わりにその姿に見惚れるような嘆息が聞こえ始めた。
この国に王子はいない、だが、自分がいる。
王国の上流貴族や各国の大使の前で、それをアピール出来た。
気になったのでちらり、と女王を見る。
母である女王は、特に驚いた様子もなく、式の進展を眺めていた。
それには拍子抜けする。
やはりマエラが手を回していたのだろうか。
それなら何の問題もない。
エメフィーは粛々と、騎士として儀式をこなしていった。
「今この時より、ジュエール王国第一王女エメフィー・ラルナ・シャルティク殿下は王太子となり、今後、国を代表する王族の一員として、その行為の一切を国に殉じることを誓いますか?」
「はい、今後はジュエール王国の一部として、国土と国民の生命を護るため、この身の全てを国に捧げます」
エメフィーは深々と頭を下げ、その頭に手を添え何かを祈る大司教。
「おめでとうございます。あなたは神の祝福を受けました。今後はジュエール王国王太子エメフィー・ラルナ・シャルティク殿下として、この国の発展のため、一層お励みください」
大司教の言葉に、会場から一際大きな拍手が湧き上がる。
エメフィーは大司教と参列者にそれぞれ礼をする。
「それでは、最後に、陛下よりお言葉を賜りたいかと存じます」
大司教の言葉に、女王が立ち上がる。
エメフィーはその場に膝をつく。
騎士の立ち振る舞いは怒られるかもしれないが、構わない。