第17話 話の分かる側近
「こちらです」
マエラの案内で、明日の儀式の会場にたどり着く。
そこは儀式の際にはいつも使用される間であり、見慣れているのだが、明日の儀式の準備が進んでおり、いつものしんとした厳かな雰囲気もない、慌ただしい感じである。
第一王女が来ても、敬礼はなく、会釈程度で通り過ぎていく。
「えっと、今日はここで何をするんだっけ……」
「明日の儀式の簡単な予行をしていただきます」
「うーん、それは、確かに必要かなあ……母上や貴族の人たち以外にも、各国大使まで来るんだよね?」
明日の本番は、エメフィーのお披露目の日でもある。
「もちろん、大使だけではなく、主要各国の王族の方もご参列なされます」
だから、そこに来る全員が一挙手一投足を見て、エメフィーという人物を見極めに来るのだ。
失敗は許されない。
「ちゃんと、覚えておかないとなあ……」
いつも楽観的なエメフィーでも不安げな表情。
「ふふふ」
それが微笑ましくて、マエラは微笑む。
「──殿下、明日は殿下のお披露目の日です。ですから、もっと殿下らしくしましょう」
「……え?」
「儀式も伝統も、もちろん大事ですが殿下自身を国内外にお披露目するのです。大事なのは、殿下らしさを伝えるという事」
「う、うん……?」
いつもと違うマエラに、少し戸惑う。
マエラは、基本的に堅い。
それは別に悪いことではなく、エメフィーが自由に振舞い、シェラが賛同する、だから、その二人を止める者はどうしても必要だからだ。
だから、マエラは常識良識に徹して注意をして来た。
そのマエラが、自分らしくしろ、とはどういう事だろう。
「一生に一度の儀式です。殿下は淑やかさよりも凛々しさがお似合いです。衣服も儀式での振る舞いもその方向で行きましょう。そのように、準備してまいりました」
「……本当に?」
「もちろんです。ただし、それに向けた練習が必要になりますが、殿下なら普段の振る舞いの延長ですから問題ないでしょう」
にっこり笑う、マエラ。
「マエラッ!」
エメフィーはマエラを持ち上げて、二人で回る。
そして、下ろしてから抱きしめる。
「大好き! あと、柔らかくていい匂い……」
最初は単純な歓喜と感謝だったのは事実だ。
だが、下ろして抱きしめているうちに余計な感情が混じって行った。
「殿下、明日にそのようなことをされますと、全ての振る舞いが台無しですよ。ただの好奇な方と思われてしまいます。それに──」
エメフィーはおとなしく離れたが、マエラは間を置く。
「明日以降、今のご自分の行為を、とても後悔なされることになりますよ?」
「? どういうこと?」
「明日、ご自分でお考えください」
「?」
マエラの言うことを、何一つ理解できないエメフィー。
これまでもマエラが難しいことを口にすることは多かったのだが、いつも長い時間をかけてもエメフィーに分かりやすく説明をしてくれたのだが、今回ばかりは説明してくれる様子はないようだ。
「それでは明日の儀式の打ち合わせをいたしましょう。進行を司るのは大司教で──」
エメフィーがその違和感を考える暇を与えず、マエラが儀式の説明を始めた。