第15話 一歳ずつ違いの三人
「全く、マエラのおかげで遅れそうじゃないか」
「私のせいではありません。まだ反省が足りないようならもう一度お話しさせていただきますが?」
「いや、悪かったよ。もうやらないって」
マエラに髪を乾かしてもらいながら、さらなる説教に発展しそうになったので、素直に謝る。
正直、さすがにエメフィーもやり過ぎたとは思っている。
「……さすがに殿下が相手でも、あそこまでは恥ずかしかったです」
ぼそり、とマエラがつぶやく。
「ごめんって、本当に悪かったよ」
エメフィーもそう思って反省しているが、物凄く良かったので反省の前にその時の事を思い出してしまい反省し切れない。
最近この手の、「やり過ぎ」が多すぎると反省してるところに、更にやり過ぎてしまった。
自分も成長して、より多くの部下を持つ身となる。
こういうところに注意しなければ、と反省はしているのだ。
「ところで、二人は何を急いでいるのですかぁ?」
「シェラ、私は昨日にも言ったはずですよ? 明日の殿下のお誕生日の打ち合わせを行うのです」
「ふぇ? エメさま、もうお誕生日ですかぁ……?」
悲しそうな顔のシェラ。
「うん、そうなるね。もう明日で十六歳だ」
「またあたしの先に行ってしまうんですかぁ! 寂しいですぅ……」
シェラがしょんぼりとつぶやく。
一歳歳下のシェラは、彼女の誕生日からエメフィーの誕生日の三か月間だけ、同じ年齢になるのが嬉しいのだ。
「うーん、こればっかりはしょうがないからねえ」
シェラの寂しげな顔は何とかしてやりたいとは思うが、時間を戻す魔法は、この世にはない。
シェラと同じ歳でいられるのは三カ月という限定があるのは仕方がない。
「また、来年には追い付いてくればいいよ。僕は十六歳で待ってるから」
「はい、来年も追いつくですぅ」
撫でてやると目を細めるシェラが可愛い。
ちなみに、既に十七歳になっているマエラにエメフィーが追いつくことは永久にない。
「シェラ、あなたも分かるでしょう、王族の方の十六歳がどのような意味を持つのか。明日はそのお祝いの儀式の日なのですよ?」
「分かってますぅ。エメさまが大人になるんですよね?」
「そうですけれど……本当に分かっているのかしら……」
ため息を吐く、マエラ。
気にすることはないかな、などとエメフィーは思っている。
明日は、確かにエメフィーにとっては重要な日だ。
王族にとって、十六歳というのは、公人になるという事。
公人とは、公的に地位のある者のことだ。
今後はもの一つ言うのも、子供の言ったことでは済まされない。
つまり、エメフィーの発言は王族の発言となり、だから発言には責任が付きまとう、という事。
そして、エメフィー女騎士団が、正式な団として認められるという事。
何しろ騎士団の団長は、王族でなければならない。
この王族とは明文化はないが公人のことで、つまりは、現段階で公人ではないエメフィーは代表たりえない。
つまり、これまでの騎士団は正確には、将来騎士団となるために訓練をしている「エメフィー女騎士団予備隊」と言ってもいいだろう。
それが明日、エメフィーが十六歳になるのを機に、公人である団長率いる正式な騎士団となる。
これが認められる手筈は既にマエラが整えてくれている。
つまり、明日以降ならいよいよ実戦が出来るのだ。
実戦、と言っても今は平和な時代であるし、当面の危機は、魔姫しかいないため、魔姫との戦いに打って出ることになるが。
これに関してはまだ、時期尚早だと思っている。
今のエメフィー女騎士団は完全にまとまっているとは言えない。
これはエメフィー自身の力の及ばなさもあるが、特に弓隊と魔法隊が成長過程で、強いとは言えない状況だ。
それにそれ以外にもまだ問題はある。
だから、もう少し時期を見るしかない。
魔姫も、いきなり明日に襲ってくるわけではないだろう。
それまでに、何度も隊長会議を重ね、各隊を見回り、団としての力を強化していくしかない。